
日本においてもSaaS(Software as a Service)業界中心から、さらに一般企業へも広がりつつある、「カスタマーサクセス」の新しい考え方。
デジタル社会では、あらゆる業界で「モノ売り切りモデル」から「リテンションモデル」へと事業モデルの軸足がシフトします。購入してもらうことではなく、購入を通してカスタマーに本当の成功を手に入れてもらうことに価値を置き、カスタマーを虜にするのが、今話題のサブスクリプションなどに代表されるリテンションモデル。そして、それを成功に導く考え方がカスタマーサクセスです。
本記事では、5章に分けて、カスタマーサクセスについての基本を解説していきます。
Index
└カスタマーサクセスVSカスタマーサービスVSアカウントマネジメント
└ 【アメリカ】アマゾンエコー(Amazon Echo)の場合
└ カスタマー生涯価値(LTV: Life Time Value)
└カスタマー獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)
└ イベント
└書籍
1)カスタマーサクセスの定義
・カスタマーサクセスとは
あなたのカスタマーが成功しない限り、あなたが事業で成功することはありません。あなたのカスタマーがあなたのプロダクトを利用することで成功したなら、彼らはあなたのプロダクトを使い続け、結果としてあなたの会社は成功します。
カスタマーサクセスとは、カスタマーがあなたのプロダクトを利用することで期待した成果・成功を手に入れること、そのためにすることすべてです。もちろんそれには人材、プロセス、そして何より重要なもの、即ち、データが必要です。
カスタマーが実際にいつ・何を目的に・どうプロダクトを使っているか分からなければ、彼らを成功へ導くことは不可能です。
そのためには以下3点を実施する必要があります。
1)テクノロジーを使ったツールを実装する
2)プロダクトの利用データとその背景にある関連データから、評価したカスタマーの”ヘルス”をリアルタイムで可視化する
3)成果ベースの指標とプロセスを全社的に採用する
この3つすべてを実施できて初めて、カスタマーに対し積極的かつ総合的なアプローチを組織レベルで展開できます。ここでカスタマーとは、プロダクトを利用する人に加え、プロダクトが利用されることで利益を得る人も含みます。
組織レベルのアプローチを展開できれば、カスタマーはあなたのプロダクトから契約期間中、ずっと継続的かつ拡幅的に価値を得ることができます。
・カスタマーサクセスVSカスタマーサービスVSアカウントマネジメント
違いを簡潔に言うと、カスタマーサクセスは事業の能動的な側面、カスタマーサービスは受動的な側面です。
カスタマーは問題が発生すると、問い合わせフォームやEメール、電話で連絡してきます。それを受けたカスタマーサービスが問題を解決できれば、カスタマーは満足してプロダクトを利用し続けてくれます。問い合わせを受けて対応するこの受動的な側面がカスタマーサービスです。つまりカスタマーサービスは一時的なケースバイケースの問題に焦点を当てます。
アカウントマネジメントは、代理店を利用した時代からある古い概念です。アカウントマネジャーは、不満や問題を抱えるカスタマーに対応します。つまりカスタマーサービスと同様、ケースバイケースの問題対応に重点を置きます。加えてアカウントマネジメントの思考行動様式は、カスタマーサクセスとは全く異なります。即ちアカウントマネジャーはその名の通り口座(アカウント)を管理(マネージ)するのであり、口座を所有するカスタマーの成功を管理はしません。
カスタマーサクセスは、アカウントマネジメントの後継であり上位進化形です。
カスタマーサクセスは、カスタマーに関する情報を可能な限り収集し活用することで、カスタマーが抱える問題、裏返せば事業機会、をピンポイントで特定します。カスタマーサクセスは事業戦略のインプットにもなります。カスタマーのライフサイクル全体に渡るカスタマー体験をより深く理解することになるので、あなたのサービスやプロダクトが提供するカスタマー体験はどんどん改善されていきます。
何より重要なのは、カスタマーサクセスチームのメンバーは、カスタマーに寄り添い、カスタマーが成功することに全力を尽くす点です。自社の事業が成功することだけを考える、従来のやり方と全く逆です。この思考法の大転換は企業へ大きな利益をもたらします。
・カスタマーサクセスVSカスタマー体験
カスタマーサクセスは、カスタマーの視点にたちカスタマーがあなたのプロダクトやサービスをどう利用しているのか、そのカスタマー体験を深く理解することです。言い換えれば、カスタマーサクセスとはカスタマーと事業の2つの視点でプロダクトの利用のされ方に注目することと言えます。
目的は、以下3つです。
- プロダクトを利用する「How」を理解する
- プロダクトを利用する「Why」を理解する
- より良く利用できるようデータを活用する
※出典元: Gainsight社の許可を得て、“The Essential Guide”原文を和訳して一部抜粋しています
2)カスタマーサクセス事例
・【アメリカ】アマゾンエコー(Amazon Echo)の事例
アマゾンエコーは、アマゾンが開発した音声認識AIアシスタント「Alexa(アレクサ)」を搭載するスマートスピーカー。世の中に登場した2014年(日本の一般販売は2018年)以降、続々と新機能が追加され続けています。
現在は音楽を聴くスピーカー機能に加え、天気予報やニュースを知らせてくれたり、質問すると調べた結果を答えてくれたり、自分のメールやスケジュールを読んでくれたり、他の機器と会話しあって部屋の電灯を消したり空調の温度調節もしてくれたり。そんなスマートスピーカーを開発したアマゾンがカスタマーに届けた価値について、「音楽を聴く」を例に説明していきます。
質問です。「アマゾンは、Alexaを搭載したアマゾンエコー(モノ)を開発したことで、スマートフォンにも音響スイッチにも触れず、要は一切手を使わずに音声操作だけで音楽を聴くことができる、という画期的な体験(コト)を届けた。」は「正しい(Yes)」でしょうか? -答えは「否(No)」。
「音楽を聴く」という体験(コト)の世界において、登場当初のAlexaはAmazonプライムミュージックの楽曲しか流せなかったのです。その後、アマゾンはカスタマーの要望を真摯に受け止め、Spotify、Pandora、Siriusといった競合の音楽サービスにもAlexaが繋がるようにしました。今では、Amazonプライムミュージック会員以外のカスタマーにも、音声操作が可能なスマートスピーカーで好きな音楽を楽しむという音楽体験(コト)を届けています。
ここまでならコト売りに留まります。しかしアマゾンはその先、つまり画期的な音楽体験(コト)の先にある「成功を届ける」を追求しました。
届けた相手は、毎晩子供を寝かしつけるお父さん・お母さん。ようやく寝た子のいる部屋の音楽を消すために大きな声を出すと子供が起きてしまいます。そこでアマゾンは「ウィスパー(ささやき)モード」を開発。小声で「アレクサ、とめて」とささやくと、Alexaもささやき声で「オーケー」と言って(設定すると無言で)音楽がとまる機能です。
小さな子供は、お父さん・お母さんが自分に最大の関心を寄せることを期待します。一番甘えられる寝入り時は期待値が最大になります。経験者なら分かると思いますが、そんな時に少しでもスマートフォンを操作したら途端に大声で泣き出す子もいます。子供を自分の腕に抱え、その目を優しく見つめたままおしゃべりの延長で「アレクサ、XX(音楽)かけて」と言えば子供の好きな音楽が流れる音声認識は、「寝かしつけ」において最高の機能。そしてウィスパーモードがそれを完成の域に引き上げたんです。
つまりアマゾンは音楽体験の先にある「子供を寝かしつける時間が半減する・豊かになる」、つまり「カスタマーに成功を届ける」に成功したのです。こうしてアマゾンはカスタマー(親)にとってますます「なくてはならない存在」になっていきました。
・【アメリカ】Slackの事例
もう1つ、Slackの事例を紹介します。Slackは企業(ビジネス)向けコミュニケーションツール。対面の会話と同じようにオンラインで共同作業をしたり、業務に必要な人や情報を1か所に集めたり、効率的なコミュニケーションで人と人とをつなげて業務を素早く処理したりできる、要は仕事で”使える”とても便利なツールです。2013年に登場して急速に普及、2018年5月時点で800万人のアクティブユーザー(うち有料ユーザー 300万人)に毎日長いこと利用されています。
同社の目標は「Slackが無いと仕事にならない状態」になること。それにはカスタマーの事業利益への貢献を実証する、即ち「カスタマーに成功を届ける」ことが必須だと考えています。
「成功」の内容はカスタマーごとに異なり、例えば「Slackを利用することで、営業、R&D、プロダクションの部門間コミュニケーションが緊密になり、プロダクトの出荷リードタイムが20%削減する」など。こういった「成功」をカスタマーごとに具体的に定義して愚直に追求しています。
同社のカスタマーサクセス責任者であるロブ・ダリウォル氏が紹介する「カスタマーに成功を届ける」難しさを象徴する2名を紹介します。
まず1人目の若者、ジャスティンは開発チームで働く優秀なエンジニア。Slackに関する記事を初めて読んで感動し即座に購入。世界のエンジニア300人が使い始める頃にはとっくに熟達しているタイプです。
一方、2人目の男性、ボブは経理部門で働く会計士。Slackのことは耳にしたことがなく、仮に聞いても全く興味がわかない。普段使うメールに何の問題も感じていないタイプです。
ロブさんは難しさの核心をこう指摘します。「ジャスティンはSlackを使いたいと熱望して、ボブはSlackを使うよう指示されました」。つまり慣れ親しんだメール経由のコミュニケーションよりもSlackの方がずっと便利だとボブに開眼してもらう必要があります。ボブがSlackを使いこなすようになって初めて、社内のコミュニケーションのし方やそれに伴う働き方が大きく変わり、「Slackがないと仕事にならない状態」という目標を達成できるのです。
デジタル時代の勝者が成功した理由は何でしょう?
それは革新的なプロダクト(含むサービス)を開発し販売できた・プロモーションに成功した・それに必要な豊富な資金を調達できた、からではありません。それらはとても大切な必要条件ですが、十分条件ではないのです。真の十分条件は買ってもらった後にあります。つまり、カスタマーにプロダクトの価値を十分に納得してもらい、使い続けて価値を出してもらい、結果として彼らの業績が上がり成功してもらうことです。ロブさんは説明します。
「私たちが新しいソフトウェアやサービスを市場にだす時、本当の山場は技術に関わる所ではありません。私たちが新しいサービスで実現したいのは人の働き方を変えることです」。
それは決して簡単ではありません。同社は、手助けが必要な世界中のボブがどうしたら働き方を変えることができるかを、時間をかけて徹底的に考えました。そして独自の「チェンジ&アダプション手法」を見出して実行しています。こうした「成功を届ける」を愚直に追求する努力が、Slackのアクティブユーザー数の急増の背景にあるのです。
※出典元:弘子ラザヴィ著『カスタマーサクセスとは何かー日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(英治出版・2019年)より、一部加筆修正をして抜粋しています
・【日本】Sansanの事例
Sansanは「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と、個人向け名刺アプリ「Eight」を展開する日本企業です。
2007年の創業当初より当時日本ではまだ珍しいサブスクリプション型の事業をスタートし、2012年に国内企業ではじめてカスタマーサクセス部門を創設しました。現在のカスタマーサクセス部門は、同社のプロフィット部門として40名以上のメンバーが活躍し、約6,000件のSansan導入企業の成功を支えています。
同社は2018年に、カスタマーサクセス プラットフォームの世界トップブランドであるGainsightを日本企業として初めて導入しました。カスタマーサクセス部門をゼロから立ち上げた、同社の共同創業者で取締役の富岡圭氏は言います。
「カスタマーサクセスを立ち上げた当時から今でも変わらないのはカスタマーサクセスの姿勢です。プロダクトをお客さんに使ってもらうことで顧客価値を生み出していこうという姿勢は一貫して変わりません。当時から大きく変わったのは、データドリブンな仕組みを取り入れたことです」
Sansanというサービスはメリットを実感してもらうのが難しく、そもそも使ってもらわなければ価値も出せません。つまり顧客価値を生み出すために「まず使ってもらうことが大事」という想いから、カスタマーサクセス部門が創設されました。従って当初はオンボーディング支援が重視されました。
業績向上と共にカスタマー数が急増した結果、オンボーディング終了後の利用状況まできめ細かく把握することが難しくなったり、メンバーの数も急増して属人化した実務が散見され始めました。加えて事業の成長フェーズが「使ってもらう」即ちオンボーディング率アップから、「価値を出してもらう」即ちアダプション率アップによるネット収益リテンション(NRR)アップへと軸足を移す時期にきていました。
そうした中で、データからカスタマー1人ひとりを知り尽くし、予測的な対応をとるカスタマーサクセスへと進化させることを目的に、Gainsightという世界標準のカスタマーサクセスプラットフォームの導入を決めたのです。
Gainsightは、単なる「テクノロジーを使った便利なツール」ではありません。ツールの裏には、成功した数多くのグローバル企業の実務ノウハウや、利用する企業各社が最適解を考えるのに役立つフレームワークといった無形資産が実は大きな価値として存在します。
Sansanもそうしたフレームワークやノウハウをふんだんに活用し、独自のヘルススコアに加え、データ収集・統合から打ち手の実行まで首尾一貫して定義した一連のプログラムを非常に短期間に設計し、運用を始めることができました。
データドリブンな仕組みを入れた現在のカスタマーサクセスについて富岡氏は話します。
「カスタマーサクセス部門にはお客様からの要望がかなり届くんです。100社に会えば100通りの要望が届きます。その要望を全て受けることがいいことかというと必ずしもそうではない。本当の顧客価値とは、実はお客さんですら気づいていないことが多いのです。従って、僕らがデータを細かく見ていくことで、本当にお客さんにとって価値のあることは何だろうって考えることがとても大事です。それを問い続けることがカスタマーサクセスの本質だと僕は思っています」
Sansanのカスタマーサクセス部門のミッションは「お客様の成功にむけてSansanの価値を届けLTV(ライフタイムバリュー)を最大化すること」です。
Gainsightのフレームワークを参考にヘルススコアを検討した際、同社のカスタマーサクセス組織が歪みを抱えていることに気付きました。そこで組織ミッションに立ち戻り、組織の在り方を大幅に見直しました。下記の図は、現在のカスタマーサクセス部門が大事にする5つの柱です。
※出典元:Sansan社内資料より(2019年3月時点の情報です)
利用促進を担うCSMに加え、トレーニング&コミュニティ、プロダクト・フィードバック、テクノロジー&マーケティング、そして契約に責任をもつリニューアルセールスが5つの柱を担います。この5つの柱に基づき、CSM、リニューアルセールス、カスタマーマーケティングが役割をもって業務を遂行します。その構図は以下の通りです。
※出典元:Sansan社内資料より(2019年3月時点の情報です)
この構図のポイントは2つあります。
1つは、CSMとリニューアルセールスがNRRのアップを目指して対(つい)になりながら連携をする構図になった点。もう1つは、CSMとリニューアルセールスの活動を下支えするマーケティング基盤が構築された点です。以前は拠り所とするデータがバラバラで目線が合っていなかった3者がGainsightを導入したことで同じデータを見て議論するようになりました。
具体的には、
・CSMはGainsight上のヘルススコアからカスタマーの状況を日々きめ細かく観察する
・リニューアルセールスは、CSMと共にGainsight上の機会リストを見て提案を検討したり利用率リストを見て課題を議論したりする
・カスタマーマーケティングは、CSMやリニューアルセールスが見ているのと同じデータに基づいて施策実行のアラームを何で定義すべきかをトライアル&エラーしながら施策のPDCを回す
このように、カスタマーの動きを3者が同じデータに基づいてきめ細かく確認しながら連携する体制へと進化したのです。
富岡氏によると、データ活用へ投資したことの成果は直ぐに現れました。
「お客様が増えた結果、以前はきめ細かくフォローしきれない面がありました。Gainsightを導入した今はお客様の変化に素早く気付けるようになりました。お客様に良いタイミングで最適な提案をすることで顧客価値を上げられるようになり、売上アップという成果がすぐに現れました」
カスタマー社内でIDが追加されたり管理者が変更されたりなどの、小さな、しかし重要な変化を以前はタイムリーにすべて把握することが困難でした。しかしGainsightを導入したことで、そうした変化は自動的に検出されて要対策リストが作られるようになりました。結果、CSMやリニューアルセールスが絶好のタイミングで連絡できるようになり、それが提案機会や売上の増加という結果に繋がったのです。
数字に表れない成果も大きく現れました。カスタマーサクセス部の部長で執行役員の小川泰正氏は言います。
「Gainsightを導入したことでSansanのカスタマーサクセスは大きく進化しました。目に見える成果が現れ、社内での位置づけが高まったことは大きいです。僕にとって最大の変化は、メンバーが共通のデータに基づいて自分で判断し自立して動けるようになったため、僕自身が現場を離れられるようになったことです。データのどこを見るべきかポイントが分かっているし、経営層へのレポートも容易になりました」
※出典元:Success Japan『国産カスタマーサクセス事例(2)Sansan』(https://success-lab.jp/customer-success-made-in-japan2/)
3)カスタマーサクセスのKPI・成果指標
・カスタマー生涯価値(LTV: Life Time Value)
LTVとは、最も単純な計算式でいうと、プロダクトまたはサービスのコストにカスタマーの平均利用年数を掛けたものです。
(売上の平均値)X(平均利用期間)X(月次または年次の平均リテンション期間)
LTVは、契約-拡大モデル(要は、まず新規契約を獲得しその後でアップグレードや追加サービスを上乗せすることで売上拡大を目指すモデル)を追求するサブスクリプション型、または定期収益型の事業に最も適した概念です。なぜなら、このタイプの事業はカスタマーの新規契約、契約離脱、定期的支払額などを簡単にトラッキングできるからです。
LTVは高ければ高いほど良いです。つまり企業は、売上、取引量、リテンション率を上げる方法を積極的に見つけなければなりません。
・カスタマー獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)
CACとは、新規カスタマーを獲得するために要する費用です。
CACを計算するには、営業、マーケティングや、オンボーディング(訳者注:カスタマーがプロダクトやサービスを使いこなせるようになるための期間・プロセス)などへ、人件費含め、どれだけ会社全体で費用をかけたか知る必要があります。その費用金額を新規カスタマーの人数で割り求めます。ある特定期間(たとえば、毎月、四半期、毎年など)に対して計算する必要があります。
CACは低ければ低いほど良いです。つまり企業は、効率を改善し、リード件数を増やす方法を常に検討しなければなりません。
・チャーン(Churn)
チャーンとは、ある期間に失ったカスタマーの割合で、通常CACの上昇とLTVの低下に繋がる重要指標です。
契約解約が大量に発生する場合、そのプロダクトやサービスに根本的な問題がある可能性が非常に高いです。つまり、営業活動とマーケティング活動を改善しても解約抑制の解決策になりません。
・ネットプロモータースコア(NPS)
NPSとは、顧客ロイヤルティを測定・評価する指標で、2003年にベイン&カンパニーが考案しました。NPSがあれば、カスタマーに対し非常に長い質問調査を実施しなくて済みます。なぜなら、NPSの質問は超簡単だからです。
この会社/製品/サービスを友人や同僚に推薦しますか?
カスタマーは、1から10までの数字の中から質問に答えます。つまり、0は全くそう思わない、10は非常にそう思う、です。 そして回答を3カテゴリーに分類します。
・プロモーター(ファン):9か10をつけた人
・パッシブ(受け身な人):7か8をつけた人
・デトラクター(批判的な人):0〜6をつけた人
NPSは、プロモーター(ファン)の割合からデトラクター(批判的な人)の割合を差し引いて算出します。名前が示すように、受け身な人は計算から除外します。スコアは理論上 −100(全員批判的)〜+100(全員ファン)の範囲に収まります。一般的に0より大きければ良好、+50より大きければ素晴らしいとされます。
フォローアップの質問を追加することも奨励されます。通常、そのスコアをつけた理由を記述してもらうなどオープンクエスチョンが多いです。そういった追加質問への回答をあわせることで、計算で求めたスコアの意味をより深く理解できます。更に顧客満足度を向上させ、財務利益を改善させる機会も分かるため、改善に向けより効果的な実行計画を立てることができます。
※出典元:Gainsight社の許可を得て、“The Essential Guide”原文を和訳して一部抜粋しています
4)カスタマーサクセスの部門・職種
カスタマーサクセス人材が活躍する仕事(キャリア)とは、簡潔に言えば、永続的な関係が前提のカスタマーへ成功を届けることを直接のミッションとする仕事です。
具体的に考えてみましょう。最も狭義かつ世界共通なのは、カスタマーサクセスマネジャー(CSM)と呼ばれる仕事。加えて、それを束ねるカスタマーサクセス部門の責任者や副社長(VP)、さらに彼らを統括する取締役やCCOがその上長ないし経営層として存在します。
では、それ以外の仕事はカスタマーサクセスの仕事と言えないでしょうか?
答えは「そんなことはない(CSMとその上長に限定されない)」です。組織の形は各社で異なり、事業成長に応じて変化もします。また、カスタマーセントリックな企業文化が強い会社にはカスタマーサクセスという名の部門が存在しないことも多いです。つまり表面的な名称や肩書に基づき限定的に定義すべきではないのです。
しかしそれだと漠然として困るかもしれません。カスタマーサクセス人材には大いに活躍してほしいので、活躍の場にふさわしい仕事・職場に必須の「環境要件」をチェックリストとしてお伝えしたいと思います。
- 社長含む経営メンバー全員がカスタマーセントリックな企業文化の代表者と言えるでしょうか?
「カスタマーセントリックな企業文化」の定義
- 「私がカスタマーなら」を常に考える。何かを判断する時は「私がカスタマーなら賛成か?」を必ず問い、カスタマーの成功に繋がることが常に最優先で意思決定される
- カスタマー体験の良し悪しと彼らが手にした成功を数字で測定している。それが企業の経営目標とリンクしていて、各組織はその経営目標の一翼を担うことで組織が一枚岩になっている
- カスタマーの声を収集しプロダクトや業務に反映するフィードバックループの仕組みがある。結果として企業のあらゆる活動が首尾一貫して素晴らしいカスタマー体験に直結している
- 社長と直属の上司は、カスタマーサクセスの重要性と必要性を理解していますか?
- 新しい取り組みや挑戦を奨励する雰囲気があり、必要な投資や予算も得られる環境にありますか?
カスタマーサクセスの仕事はまだ新しいです。活躍の場を職務名や部門名や肩書で判断すると、大切なキャリア人生の可能性を見誤るリスクが高いのです。
最も大切なのは、上述の環境要件すべてが満たされること。その上で「カスタマーへ成功を届けることを直接のミッションとする仕事」であり、かつあなたが情熱を注げると思う機会ならば、どのような職場・職務・職位だろうと、その経験はあなたのキャリア人生を確実に豊かにしてくれるでしょう。
※出典元:弘子ラザヴィ著『カスタマーサクセスとは何かー日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』(英治出版・2019年)より、一部加筆修正をして抜粋しています
5)カスタマーサクセスの関連イベント・書籍
【イベント】
日本初のカスタマーサクセスカンファレンス『Success4』
2019年12月8・9日の2日間に渡り、第1回が行われたカスタマーサクセスカンファレンス。基調講演の『キャズム』著者ジェフリー・ムーア氏を始め、国内外のリーダーによるセッションが行われました。今後の活動はサイトをチェック。
https://success-lab.jp/success4/
【ウェビナー】
『Success4 webinar Pulseシェアリング』
2019年7月以降、月1度の頻度でお届けしているSuccess4 webinar Pulseシェアリングは、世界最大のカスタマーサクセスカンファレンス「Pulse(パルス)」の内容を題材に、毎回異なるゲストスピーカーをお招きして日本企業の視点でカスタマーサクセスを議論するウェビナーです。
【書籍】
『カスタマーサクセスとは何か―日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』
著:弘子ラザヴィ(英知出版、2019年7月)
著:Ashvin Vaidyanathan、Ruben Rabago、訳:弘子ラザヴィ(英治出版、2021年3月)
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カスタマーサクセスに関連するBasicな用語を解説。
・LTVとは?定義や算出方法、CAC・チャーンとの関係性まで
・リテンションとは?意味からリテンション率の算出方法まで教えます
・カスタマージャーニーとは?定義や考え方、カスタマージャーニーマップの作り方まで
・NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは?定義や計算方法、調査用お勧めソフトウェアまで
・オンボーディングとは?意味や設定方法、日本企業での成功事例まで
監修
弘子ラザヴィ Hiroko Razavi
経営コンサルタント。サクセスラボ株式会社代表取締役。一橋大学経営大学院修士課程修了。大学3年次に日本公認会計士二次試験合格。公認会計士として数多くの企業実務に触れたのち、経営コンサルタントに転じる。ボストンコンサルティンググループでは全社変革・企業再生プロジェクトを、シグマクシスではデジタル戦略プロジェクトを多数リード。2017年、スタンフォード経営大学院の起業家養成プログラムIgniteに参加するためシリコンバレーに在住した時にカスタマーサクセスに出会う。帰国後、サクセスラボ株式会社を設立。シリコンバレーで築いたネットワークを活かし、カスタマーサクセスに本気で取り組む日本のビジネスパーソンを支援している。また、カスタマーサクセスに関する情報を日本語で紹介するサイト「Success Japan(https://success-lab.jp/successjp/)」の運営などを通じ、カスタマーサクセス市場の成長・活性に努めている。
▼カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」
SuccessGAKO(サクセスガッコウ)は、日本のカスタマーサクセスの未来を作る変革リーダーを輩出するための学び場です。カスタマーサクセスを追求するビジネスパーソンが、知識や知恵を学び、考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指します。経験豊富な講師陣による集中講座と、メンバー限定コミュニティにより、一方的に知識を伝授するのではなく、仲間と切磋琢磨しながら「実践」することに価値をおいたプログラムを提供します。
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