
Gainsight社の豊富な資料の中でカスタマーサクセス初心者に向けたガイド “The Essential Guide” の和訳版を「G-ガイド」と名付けてシリーズでお届けします。
記念すべき第1号は、ズバリ「カスタマーサクセスとは」です。
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
第1章 カスタマーサクセスとは
成功とは、何度も何度も失敗してもなお情熱を失わないことである。
– ウィンストン・チャーチル
あなたのカスタマーが成功しない限り、あなたが事業で成功することはありません。あなたのカスタマーがあなたのプロダクトを利用することで成功したなら、彼らはあなたのプロダクトを使い続け、結果としてあなたの会社は成功します。
カスタマーサクセスとは、カスタマーがあなたのプロダクトを利用することで期待した成果・成功を手に入れること、そのためにすることすべてです。もちろんそれには人材、プロセス、そして何より重要なもの、即ち データ が必要です。
カスタマーが実際にいつ・何を目的に・どうプロダクトを使っているか分からなければ、彼らを成功へ導くことは不可能です。
そのためには以下3点を実施する必要があります:
1. テクノロジーを使ったツールを実装する
2. プロダクトの利用データとその背景にある関連データから評価したカスタマーの”ヘルス”をリアルタイムで可視化する
3. 成果ベースの指標とプロセスを全社的に採用する
この3つすべてを実施できて初めてカスタマーに対し積極的かつ総合的なアプローチを組織レベルで展開できます。ここでカスタマーとは、プロダクトを利用する人に加え、プロダクトが利用されることで利益を得る人も含みます。
組織レベルのアプローチを展開できれば、カスタマーはあなたのプロダクトから契約期間中ずっと継続的かつ拡幅的に価値を得ることができます。
カスタマーサクセス vs. カスタマーサービス vs. アカウントマネジメント
違いを簡潔に言うと、カスタマーサクセスは事業の能動的な側面、カスタマーサービスは受動的な側面です。
カスタマーは問題が発生すると、問い合わせフォームやEメール、電話で連絡してきます。それを受けたカスタマーサービスが問題を解決できれば、カスタマーは満足してプロダクトを利用し続けてくれます。
問い合わせを受けて対応するこの受動的な側面がカスタマーサービスです。つまりカスタマーサービスは一時的なケースバイケースの問題に焦点を当てます。
アカウントマネジメントは、代理店を利用した時代からある古い概念です。アカウントマネジャーは、不満や問題を抱えるカスタマーに対応します。つまりカスタマーサービスと同様、ケースバイケースの問題対応に重点を置きます。
加えてアカウントマネジメントの思考行動様式は、カスタマーサクセスとは全く異なります。即ちアカウントマネジャーはその名の通り口座(アカウント)を管理(マネージ)するのであり、口座を所有するカスタマーの成功を管理はしません。
カスタマーサクセスとアカウントマネジメントは?自宅の望遠鏡とハッブル望遠鏡くらい異なる。
カスタマーサクセスは、アカウントマネジメントの後継であり上位進化形です。
カスタマーサクセスは、カスタマーに関する情報を可能な限り収集し活用することで、カスタマーが抱える問題、裏返せば事業機会、をピンポイントで特定します。
カスタマーサクセスは事業戦略のインプットにもなります。カスタマーのライフサイクル全体に渡るカスタマー体験をより深く理解することになるので、あなたのサービスやプロダクトが提供するカスタマー体験はどんどん改善されていきます。
何より重要なのは、カスタマーサクセスチームのメンバーは、カスタマーに寄り添い、カスタマーが成功することに全力を尽くす点です。自社の事業が成功することだけを考える従来のやり方と全く逆です。この思考法の大転換は企業へ大きな利益をもたらします。
カスタマーサクセス vs. カスタマー体験
カスタマーサクセスは、カスタマーの視点にたちカスタマーがあなたのプロダクトやサービスをどう利用しているのか、そのカスタマー体験を深く理解することです。
言い換えれば、カスタマーサクセスとはカスタマーと事業の2つの視点でプロダクトの利用のされ方に注目することと言えます。
目的は以下3つです:
1. プロダクトを利用する「How」を理解する
2. プロダクトを利用する「why」を理解する
3. より良く利用できるようデータを活用する
第2章 カスタマーサクセスはなぜ重要なのか
カスタマーサクセスは契約更新プロセスを改善する
テクノロジー業界の古き良き時代、つまり契約条件で縛ったり技術的な障壁を作ったりすることでカスタマーを囲い込めた時代は終焉しました。現代は、カスタマーがパワーを持っています。
Redpoint社のベンチャーキャピタリスト、トーマス・トゥングゥス氏は記事の中で述べました。
企業は契約更新プロセスを常に回しています。カスタマーは月々の、四半期毎の、または年間の請求書を受け取るたびに、契約を継続すべきか迷います。新規の売込みに比べ、契約更新の連絡はかつて無いほど頻繁に交わされるようになりました。
契約更新プロセスを上手に管理できるテクノロジー企業は、より少ない資金で、より素早く成長できます。カスタマーサクセスは、最も効率的に契約更新プロセスを成功させるのに必要な知見、組織、チームそのものです。
カスタマーサクセスがチャーンを改善する
テクノロジー企業の収益はインバウンドマーケティング戦略に大きく依存します。インターネット上のレビューは新規契約のリード獲得上欠かせない超重要な要素になりました。
定期収益型の事業モデルをとる企業は、実用最小限プロダクト(MVP; Minimal Viable Product)を1日も早く市場へ送り出す必要があります。それはMVPをもとにユーザーからフィードバックを得てプロダクトを徐々に磨き込むためです。
レビュー付きのユーザー評価や、プロダクトに対する好意的・批判的なコメントは簡単にいくらでも入手できるようになりました。誰もが容易に評価結果を見ることができる結果、サービスの新規契約や契約解約は一瞬で起きるようになりました。
こういう環境でカスタマーを囲い込むには、チャーンを予測できるだけでなく、チャーンを防止できる実践型エキスパートチームが必須です。そういうチームを作るには、多くの時間をかけてトレーニングや指導や意識付けをする必要があります。
カスタマーサクセスの専門チームはカスタマーから貴重な声を収集します。それをカスタマーのヘルスデータと組み合わせることで、プロダクトの機能強化や機能追加の要望をプロダクトチームや開発チームに対しより積極的に伝えることができます。
その結果、カスタマーは問題が起きもしない前に解決策を知ります。そう、問題が起きないんです!カスタマーが離れる理由がないですよね。
カスタマーサクセスは収益成長を加速させる
Storm Ventures社のマネージングディレクター、ジェーソン・レムキン氏は、Gainsight社のイベント Pulse 2015で次のように述べました。
収益の90%はカスタマーサクセスから生まれる。
カスタマーサクセスのエヴァンジェリスト、リンカーン・マーフィー氏は、Fobesで次のように述べました。
収益の大部分はカスタマーと契約した後の関係性から生まれる。
これらのコメントが正しいのは、テクノロジー企業にとり既存カスタマーへのアップセル及びクロスセルは非常に大きな収益拡大機会だからです。カスタマーサクセスは、こういった収益機会を生み出すだけでなく、それを実際の収益に結びつけるメカニズムそのものなのです。
例えば 100ドルの収益を例に考えてみましょう。
ご覧の通り、新規カスタマーの獲得コストは多くの場合1年目の収益を上回ります。これはサブスクリプション型事業モデルではごく一般的です。2年目以降に定期収益が入るから可能なのです。
2年目の既存カスタマーの維持コストをご覧ください。1年目に比べ費用はほとんどかからず、収益はほぼ利益になります。
何より重要なのは、カスタマーサクセスをきちんと実施すればこの比率はその後何年も継続する点です。
更に言うと、この表にはアップセルやクロスセルなどの追加収益や、副産物的な収益(口コミ紹介)は含まれていません。
このようにサブスクリプション型事業モデルでは既存カスタマーをしっかり囲い込むことが収益成長の盤石な基盤になります。そしてカスタマーサクセスはその基盤を構築し磐石にする唯一の方法です。
第3章 カスタマーサクセスはどう機能するのか
カスタマーサクセスでは、テクノロジーを使ってプロダクトの利用データと関連データを組み合わせ、カスタマーの「ヘルス」をリアルタイムで可視化することが非常に重要だと先に述べました。
それが出来るようになったら、次は組織レベルのアプローチでカスタマーサクセス戦略を実行する実働チームが必要です。さて彼らは一体何をするのでしょう?
具体的には以下3要素が連動することでカスタマーサクセスが機能します。
1. カスタマーサクセスのソリューション
基本的データを収集・可視化するソフトウェアのプラットフォーム。コミュニケーションツールやワークフローなども含まれます。
2. カスタマーサクセスの戦略
カスタマーに対し積極的かつ総合的なアプローチを組織レベルで展開するための方針と戦術
3. カスタマーサクセスのチーム
カスタマーサクセスのあらゆる活動をリードするプロフェッショナル集団
それぞれ詳しく見てみましょう。
1. カスタマーサクセスソリューション
1) カスタマーサクセスのソフトウェア
このソフトウェアは、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)ソフトウェアとプロダクトを繋げます。このソフトウェアが、プロダクトのユーザーの活動とCRMへのインプットデータとをモニタリングします。
また、アルゴリズムを活用してユーザーの傾向値をマッピングし、統計値をレポートし、将来を予測します。さらに、カスタマーサクセスチームが電話やEメール、チャット、対面から得た情報も追加できます。
2) カスタマーサクセスのサービス
このサービスは、カスタマーサクセスをソリューション(解決策)たらしめるものです。カスタマーサクセスサービスは、あなたの会社が提供するソフトウェアをカスタマーにとり真のパートナーに格上げします。
テクノロジー産業において、単独で利用するツールは既に時代遅れです。現代のカスタマー企業は、ソフトウェアに “加え” サービスも必要としています。ではサービスとは一体何でしょう?
カスタマーサクセスアソシエイション(CSA)によると、カスタマーサクセスのサービス/ソリューションとは「テクノロジー、マーケティング、営業、プロフェッショナルサービス、トレーニング、およびサポートを統合した、SaaS /クラウド時代に必須な “リレーションシップ・プロダクト” 」です。
2. カスタマーサクセス戦略
カスタマーサクセスは文字通り事業の成功・失敗を左右します。なぜならカスタマーサクセスはカスタマーとの関係を強化し積極的に囲い込むのに必須なものだからです。
カスタマーサクセスはあらゆる企業活動に影響するため、事業戦略はカスタマーサクセスを考慮して構築することが必須です。
次の質問に答えることで、戦略構築に必須なカスタマーマップを作成しましょう:
– 既存カスタマーのカスタマー体験はどういうものか?
– カスタマーサクセスは、既存カスタマーのカスタマー体験にどんな影響を与えているか?
– 既存カスタマーが好むコンテンツやコミュニケーション手段は?
– どんな頻度・タイミングで既存カスタマーと関わり、また彼らをモニターするのがよいか?
答えがハッキリしたら、次はカスタマーのライフサイクル全体に渡りカスタマーサクセスを正しく展開してください。
3. カスタマーサクセスチーム
カスタマーサクセスチームは実働部隊です。彼らは企業活動を「受動的」から「能動的」へ転換します。
具体的には次のような企業活動を支えます:
– プロダクトチームが、ユーザーが心から求め必要とするプロダクトを構築する
– マーケティングが、プロダクトに最適なカスタマー候補のリードを獲得する
– 営業が、カスタマー候補に対し適切なプロダクトを効果的に売り込み契約締結する
カスタマーサクセスアソシエイション(CSA)によれば、カスタマーサクセスチームはカスタマーに対しトレーニングやオンボード支援をすることで「すべてのカスタマーが求めていた価値を得られる」ようにします。カスタマーサクセスチームは「カスタマー体験をシームレスに一貫して矛盾のないものにする」ためにデータを収集し、分析し、使用します。
あなたの会社のカスタマーサクセスチームはどんな仕事をしていますか? その実態は主に、組織レベルのアプローチの内容と、どのようなカスタマーサクセス組織が適しているか、によって異なります。
トーマス・トゥングゥス氏によれば、カスタマーサクセス部門には以下の人たちが所属します:
1. 営業エンジニアとプリセールス
契約締結を担当するアカウントエグゼクティブと営業プロセスを推進する人
2. プロフェッショナルサービス
カスタマーソフトウェアのカスタマイズとトレーニングを提供する人
3. カスタマーサクセスマネジャー
アカウントとの関係を育て取引を拡大する人
4. ラーニングチーム
カスタマーがプロダクトを最高に利用して契約を継続するよう、成功事例やナレッジやWebセミナーを通じ継続的サポートを提供する人
一般的にカスタマーサクセスチームの役割は以下の通りです:
・カスタマーサクセスマネジャー
・カスタマーサポート担当者
・プロダクトの実装またはオンボード担当者
・トレーニング担当者
・プロフェッショナルサービスエクスパート
・アップセル&クロスセル担当者
第4章 カスタマーサクセスはウチの会社に必要か
カスタマーサクセスソリューションをインターネットで検索すると、”B2B SaaS”に関する議論が山ほど表示されます。それを見て、カスタマーサクセスはサブスクリプション型事業モデルのB2B企業のものだと思うかもしれませんが、それは誤解ですし、真実でもありません。
あらゆる企業にはカスタマーがいて、彼らに成功してほしいと思っています。カスタマーサクセスはデータに依存し、データを収集・追跡する必要があるため、テクノロジーを活用したプロダクトやサービスを提供する企業ではカスタマーサクセスが有効です。特にデータが豊富に取れる企業では必須です。
つまり、カスタマーサクセスはSaaS事業またはB2B事業の専売特許ではありません。
SaaS業界に限らず金融や公共機関など多様な業界においてポストセールス戦略が最優先で展開されている状況を踏まえると、カスタマーサクセスはあらゆる業界で必要、かつ必要とされ続けるのは明白です。
既存カスタマーの囲い込みや取引拡大、口コミなどに投資すべきかどうか検討する時期はハッキリいって終わりました。今検討すべき論点は、いくら投資すべきかです。
すべての企業がGainsight社のようなフル機能のプラットフォームを導入する段階にいるわけではありません。企業実務の成熟度に応じ必要なカスタマーサクセスの仕組みは異なります。
事業を立ち上げたばかりの段階ではエクセルシートのような簡単で粗削りの仕組みから始めるのもよいでしょう。しかし実務が成熟するにつれ、大規模かつ本格的な自動化プラットフォームが必要になります。
最も成熟したプラットフォームでは、何千・何万件ものカスタマーのヘルスを自動で追跡したり、カスタマーへカスタマイズした連絡を自動的に送ることも可能です。