
by 稲田 和絵
世界最大のカスタマーサクセスカンファレンス「Pulse(パルス)」。2021年も前年に引き続きオンラインで開催されました。参加型セッションも多く、NPSは72と非常に満足度の高い内容でした。
そんなPulseで特に印象に残るセッションを取り上げながら、毎回異なるゲストと日本企業の視点で語り合うウェビナーが、「Success4 Webinar Pulseシェアリング」です
第14回となる今回は、NRR120%という驚くべき実績をもつカラクリ株式会社より、取締役の鈴木奨平さんをお招きしました。Pulseでのデルフィックス社のセッションについてご意見を伺い、「NRR120%を超えるカスタマーサクセスの極意」について議論。ライブ視聴者さんから寄せられた質問にも答えていきます。
<ゲストスピーカー>
鈴木 奨平氏(カラクリ/取締役)
<ホスト>
弘子ラザヴィ(サクセスラボ/代表)
<目次>
鈴木さんの自己紹介
弘子ラザヴィ(以下、弘子):
本日のゲストスピーカー、カラクリ株式会社 取締役の鈴木奨平さんです。簡単に自己紹介をお願いします。
鈴木奨平 氏(以下、鈴木):
私は、10年の会社員経験ののち起業し、カラクリの立ち上げにも関わりました。
主なキャリアとしては、まず、新卒でTSUTAYAを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。そこで6年ほど、他の企業さんが運営しているTSUTAYAの店舗コンサルティングをしました。この経験は、結構、カスタマーサクセスに近いところがあると思っています。
その後、コンサルティング会社に勤め、起業してからはフリーでコンサルティングも請け負いました。合計3年ほど、法人向けのコンサルをした感じです。事業会社で新規事業の立ち上げにも携わりました。
カラクリには、創業当時から関わってきました。最初は複業として、そして今は経営としてコミットしています。
カラクリは、まだ設立から5年ほどの若い会社です。”技術とデザインで「いつもの顧客体験」をストレスフリーに” をサービスミッションとして掲げ、チャットボットをはじめとする、カスタマーサービスのDX推進に関するサービスを提供しています。
PulseでのDelphixセッションへの印象
弘子:
最初に、Pulseでのデルフィックス CCO アレックス・ヘスターバーグ氏によるセッション「デルフィックス:バリューエンジニアリングを基軸としたカスタマーサクセス(注:詳細は こちら をご参照下さい)」 について伺います。鈴木さんが面白いと感じたのはどの辺りですか?
鈴木:
はい。「当たり前だけど、非常に重要だな」と思うことと、「印象深いな」と思うことがありました。
当たり前だけど重要だと思ったことは、3つ。
1つ目は、求める成果とエコノミックバイヤーを明確化するところです。これはなかなかできていないことではありますが、本当に重要です。カスタマーサクセスの一丁目一番地、必ずやるべきところだと思います。
求める成果についてはサービスにもよりますが、弊社の場合、大企業のお客様が多いため、決裁権を持っている意思決定者と現場のリーダー、普段運用する人とでは、見る指標が異なるというところがあります。なので、レイヤーごとに求める成果を明確にしていくことが重要だと思います。
2つ目は、プリセールスとポストセールスの連携。社内連携がうまくいっているのか、ズレがないか、ここも非常に重要なところです。
最後は、プロセスの道筋や進捗の見える化ですね。弊社では、まだ個々人が対応することもありますが、そこをシステマチックに、「エコシステム」という仕組みを用いて1つの画面を見て双方向性的に行えるというところは、非常に優れていると感じました。
目標を明確化して、どのように達成するのかというアクションも明確にする。そして、その進捗をきちんとフィードバックする。社内ではできていたとしても、対お客様となると、弊社も含め、まだまだできていない企業さんも多いのではないでしょうか。
これらは、当たり前と言えば当たり前のことですが、とても重要な部分だと思います。
印象深いポイントは、2つあります。
1つは、他サービスとの連携です。弊社でも、チャットボットで単純にテキストを返すだけではなく、例えば定期購入のサービスなら、配送日の変更をチャットボット上で行えるといった機能もつけています。そのような場合、お客様のサービスとの連携がカギになります。
あと、他のSaaSとの連携についても、今後は非常に重要になってくるでしょう。
「自分たちのサービスだけを使ってください」とはいえません。お客様に合ったサービスを使ってもらうことが、本当の顧客志向だと思います。他のサービスと連携できるかどうかは、大きなポイントです。
もう1つは、ランド・アンド・エクスパンドで、印象に残りました。まずは小さく始めるということです。弊社のお客様の中には、大企業などでありがちな、最初から大きく新規事業を立ち上げようとする企業様もいらっしゃいますが、なるべく「まずは小さな成功から取り組んでいきましょう」といって進めるようにしています。それに近いものを感じました。
カラクリの組織
弘子:
カラクリさんにおけるカスタマーサクセスチームの役割について、ご説明くださいますか。
鈴木:
はい。カラクリの組織は、大きくビジネス部門、開発部門、コーポレート部門の3つに分かれています。あと、戦略的なStrategy&Planning Teamという部門もあります。
ビジネス部門は、契約前の部門と契約後の部門とに分かれており、私は契約後の部門を統括しています。こちらのメインミッションは、契約後の顧客対応や顧客体験、カスタマーサクセスにおける全責任を担うこと。それと既存顧客の取引金額の増加、つまり、コントラクションとチャーンの阻止、およびエクスパンションの増加です。
余談ですが、私たちはカスタマーサクセスを名乗っていません。あえて「CX Design Team」と名乗っています。カスタマーサクセスは全社で取り組むことが重要です。カスタマーサクセスチームと名乗ってしまうと、「そこの部門だけがやればいい」という意識になってしまう懸念があるため、呼び方を変えています。職種に関しては、採用の関係もあるので「カスタマーサクセス」と名乗ってはいますが。
私たちの部門は、契約後の全対応を行っていて、さらに部署が3つに分かれています。特徴的なのは、カスタマーサクセスマネージャーがいる部署と、カスタマーサクセスプランナーのいる部署を分けている点です。カスタマーサクセスプランナーは、既存顧客のコンサルティング営業にカスタマーサクセスの機能を合わせたような役割を担っています。
この2つのユニットと、もう一つ、ミドルオフィス部門のユニットがあります。
カスタマーサクセスマネージャーのいる CS Management Unit という部署では、契約後にきちんとオンボーディングをして、アダプションさせていくことが主な業務となります。お客様の課題解決について、現場中心にコミュニケーションを取りながら進め、成果を創出していく。これが、主なミッションです。追っている指標は、ヘルススコアなどが中心です。
一方、カスタマーサクセスプランナーという既存のコンサルティング営業に近い職種では、重要指標としてMRRの純増額を見ています。
通常、お客様1社に対して、サクセスマネジャーとサクセスプランナーの両方がつく2名体制で対応します。例えば、サクセスマネージャーは現場の方とやり取りしますが、サクセスプランナーはもう少し上位レイヤーとディスカッションします。大企業のお客様が多く、さまざまなステークホルダーがいるため、このような体制で対応しています。
カスタマーサクセスマネジャーが成果を出すと、「もっといろいろなことをしていきたい」というご要望が出てきますので、そこをカスタマーサクセスプランナーが企画提案し、取引を拡大していく。そのような役割分担になっています。
ミドルオフィスでは、CS業務全般のパフォーマンスを上げるための業務企画やツール導入、人材育成を行っています。また、プロダクトフィードバックの整理やサービス仕様検討・戦略策定、サービス資料作成など、ビジネス視点でのプロダクト企画も行います。
弘子:
カスタマーサクセスプランナーというのは、とてもユニークですね。これがうまく機能しているからこその、この高いNRRなのだと感じました。
NRR120%超を実現する秘訣
弘子:
いよいよ、NRR120%に至る秘訣について切り込んでいきたいと思います。事前討議では「4つある」とおっしゃっていました。1つ1つ教えてください。
①顧客理解:顧客インサイト
鈴木:
はい。秘訣は 4つあります。1つ目は「顧客理解」です。
弊社は大企業のお客様が多いため、担当者レベルの顧客課題ではなく、もっと上位の経営課題を、執行役員クラスの方とディスカッションすることもあります。先ほどのランド・アンド・エクスパンドにも通じるところですが、「他のサービスと連携させてカラクリを活用したい」といった話もよくでます。会社全体の理解を得た上で対応していくことが大事です。
あと、お客様の組織について理解することはもちろん、実際にKARAKURIというサービスを利用していただいてからは、利用状況のデータやお客様のVOCなどをウォッチする。そして、その状況を見てサクセスプランナーにつなぎ、そこからよい傾向が見えてきたら、エクスパンションの対応をしていく… そのような流れを作れるように努めています。
②社内体制:各人の役割と連携
鈴木:
2つ目は、「社内体制」です。誰がどこまでやるのか、どのように連携するのか。これが、非常に重要だと思います。
私たちも、最初は、サクセスマネージャーがオンボーディングからアダプション、さらにはエクスパンションまで、一気通貫で対応をしていました。しかし、大企業のお客様に対して、1人で全てをこなそうとするのは、工数やスキルの面で非常に厳しい。そこで、目の前の課題解説をするカスタマーサクセスマネジャーと、中長期的な事業成長につながるご提案をしていくカスタマーサクセスプランナーとに分けました。
そして、社内のメンバーも、それぞれの職種を1社につき2名ずつ配置したので、お互いに壁打ちしたり、牽制役になったりと、よい連携が生まれています。
弘子:
それはとても贅沢ですね。
鈴木:
そうかもしれませんね。
③成果の見える化と共有
鈴木:
3つ目は、「成果を見える化すること」です。小さな成果をまず見せて、そこから経営が求めるような成果をきちんと出していく。このステップが大切だと思っています。
④エクスパンション商材の品揃え
鈴木:
そして4つ目は、「エクスパンション商材のラインナップ」です。これは、非常に重要なポイントだと思っています。導入してうまくいった後、伸びる余地がなければ厳しいですから。
例えば、アップセルなら従量課金の仕組みや、ご提案できるオプションがあるのか。クロスセルなら、お客様が求めるようなサービスがあるのか。もしこれらがないなら、用意する必要があるでしょう。
ハイタッチでお客様とコミュニケーションを取っていると、「こういったニーズがあるんじゃないか」という仮説が生まれてくるものです。そこから色いろ試していくのも一つの方法だと思います。
これはあくまで結果論ですが、これら4つが上手く組み合わさったことで、NRRが120%を超える状況が生まれたと思います。
最初の一歩と進めるコツ
弘子:
4つとも本当に重要な点ばかりですね。すべて揃うのが理想だと思いますが、これから整えようという場合は、どの順番で取り組むとよいでしょうか?
鈴木:
まずは顧客理解だと思います。
顧客を理解した上で、やはりビジネスなので、成果をきちんと出す。これが2番目ですね。体制と商材については、両方を並行して取り組んでいけばよいのではないでしょうか。
顧客を理解し、成果を出していくプロセスで「1人ではキツいな」とか、「他にこういうサービスがあると、お客様に喜ばれるんじゃないか」と感じて、体制を整えたり、商材やサービスを作ったりしていきました。
視聴者さんからの質問
CSM1人当たりの担当社数
弘子:
視聴者さんから質問が届いています。先ほど「贅沢ですね」と私がコメントしましたが、「全てのお客様に CSM とプランナーが付いているということですか?」という質問です。たしかに、気になりますね。
現状、1人何社ほど担当されているのでしょう? 顧客が増えた時は人数も増やすのでしょうか?
鈴木:
カスタマーサクセスマネージャーに関しては、採用が若干追いついていないところもあるのですが、1人あたり10~15社を担当しています。
カスタマーサクセスプランナーは、1人あたり20~30社くらいです。ただ、カスタマーサクセスプランナーの場合、全てのお客様について同じように対応するわけではありません。若干、対応に濃淡をつけています。
弘子:
なるほど。それで十分賄える感じなんですね。
鈴木:
そうですね。あとは、取引金額の大きなお客様の場合には、1社あたり3~4人で担当するケースもあります。
弘子:
カスタマーサクセスプランナーさんには、どのような経歴の方を採用しているのでしょうか?
鈴木:
過去のキャリアでカスタマーサクセスの経験があるメンバーや、法人営業の経験があるメンバーを採用しています。
弘子:
そういった方を採用するのは大変そうですね。
鈴木:
そこまででもありません。法人営業ですと、例えばSIerさんで働かれていた方や、大企業向けの無形商材を扱われていた方などとも、マッチすると思っています。
カスタマーサクセスマネージャーに関しては、これもいろいろなサービスがありますが、それこそ経営層に近い、事業課題解決に携わっていた方と、結構マッチするんじゃないかと思います。
弘子:
なるほど。それは私も同感です。
カスタマーサクセスチームの適正人数
弘子:
採用に絡む質問がもう1つ。「CSの人数を増やす際の基準や、見ている数字があれば教えてください」とありますが、いかがでしょうか? 契約が増えたら人を増やすのか、それとも、MRRのような指標で見ているのか…?
鈴木:
MRRですね。「1人当たりMRR」という、生産性を図る指標を私個人で持っています。会社全体のMRRを、目標とする1人あたりMRRで割り戻して、適性人数を出しています。
弘子:
では、MRRが増えるほど、人を採用していくというモデルなのですね。
鈴木:
そうですね。ただ、一人当たりMRR自体も増やしていきたいと思っています。労働集約になるわけではなく、テックタッチなども推進して、生産性のさらなる向上にも並行して取り組んでいます。
弘子:
すばらしいですね。
データやテクノロジーの活用
弘子:
ところで、先ほど、デルフィックスが活用している、お客様とデータを共有する「エコシステム」が面白いとおっしゃっていました。データやテクノロジーを活用した効率アップについて、今どこまでできていて、そして、今後こうしていきたいというあたりを、ぜひ教えてください。
鈴木:
まだまだこれからというところですが、一応、成果の可視化とヘルススコア、あと、サクセス業務の自動化については、一定のところまでできています。
ただ、今でも属人的に行っている部分もあり、自動化に関しては、まだまだできることはたくさん残っています。
これから取り組んでいきたいのは、「成果の可視化と共有」です。お客様と双方向のコミュニケーションが取れるようなツールを、弊社でも提供していきたいと思っています。
特にカスタマーサポートやサービスというのは、お客様のほうでも、貢献価値を上に伝えづらいところがある。そうした課題感を持っているので、カスタマーサポートの価値を、もっと世の中に発信していきたいですね。成果を可視化できるツールを通じて、お客様と弊社だけでなく、お客様内でもコミュニケーションできるように。そんなツールを、どんどん提供していければと思っています。
あと、ヘルススコア以外にも取れるデータがありますので、そこのデータ連携についても進めていこうと思っています。サクセス業務についても、まだまだハイタッチ中心になっているところがありますし。もっと自動化を進めていきたいですね。
カスタマーの経営層との関係づくり
弘子:
質問が続々と入っています。
「お客様の経営層とか、部門長、レイヤーの高い方にちゃんとアプローチして経営課題を確認しているということでしたが、その関係性作りはどのようにするのでしょうか? 大企業の経営層に時間をいただくのは、なかなかハードルが高いと感じています」という質問です。
この辺りの秘訣は、いかがでしょうか?
鈴木:
弊社では、マーケティングセールス段階から、アカウントベースドマーケティングと言って、「特定企業のこの人にコミュニケーションを取る」と定義しています。なので、受注前から関係性ができているというのが実状です。
もちろん、そこで関係が構築できていなかったとしても、実際に成果が出た時に、上位レイヤーの人に共有する場を作っていただいて、関係を構築していきます。
営業とサクセスの役割分担
弘子:
CSMと営業系のプランナーさんとの役割分担について、皆さん気になっているみたいです。
「営業さんとカスタマーサクセスの切り分けはどうしていますか?」「営業に受注後も顧客と向き合いたいという人が多く、設計しながら心が折れそうになります」という、苦労している方がいらっしゃいます。
あと、「エクスパンションはプランナーさんが担うということですが、チャーンについてはどういう役割連携なんですか?」という質問も届いています。この辺り、まとめてお願いします。
鈴木:
新規営業とサクセスマネジャーは、結構ドライに分けています。新規営業は、基本的に、受注してキックオフするまでです。
とはいえ、顧客接点を持ちづらい新規営業メンバーにとって、その後のプロセスや結果が気になるというのは理解できるので、その点については、週1回の全社定例会議で細かく顧客の声をフィードバックしています。最近では、セールスフォースを見れば、どのような状況なのかが分かるようになっています。
チャーンについては、ヘルススコアに兆候が最初に出てきやすいところだと思っています。基本的にはカスタマーサクセスマネージャーがメインで対応します。とはいえ、別に縦割りという感じではなく、カスタマーサクセスマネージャーとカスタマーサクセスプランナーが随時フォローし合っています。
カスタマーサクセスリーダーへのエール
弘子:
最後に、NRR120%を目指していきたいという会社さんに、ぜひアドバイスをお願いします。
鈴木:
弊社は、結果として、NRR120%超と高くなってはいますけれど、実行していることは本当に当たり前のことばかりです。
お客様が何を実現したいのかをきちんと理解して、それを愚直に進める。そのプロセスにおいて、お客様に信用、信頼していただく。そして、新たに事業成長のご提案をする。これを、本当に徹底して、愚直に行っているだけです。
弘子:
とにかく徹底せよ、ということですね。
鈴木:
はい。いろいろテクニカルなこともありますが、本質はやはりそこです。マインドセットが非常に重要だと思います。
弘子:
本当にそうですね。ありがとうございます。
(了)
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(以上)