
Gainsight社の豊富な資料の中からカスタマーサクセス初心者に向けたガイド “The Essential Guide” の和訳版を「G-ガイド」と名付けてシリーズでお届けします。
#01 カスタマーサクセスとは
#02 チャーンとは
#03 カスタマーサクセスの指標とは
#04 カスタマーライフサイクルとは
#05 カスタマーサクセス予算の立て方
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(前編)
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(後編)
#07 四半期ビジネスレビュー(QBR)とは
#08 パートナーサクセスとは
#09 VoC (Voice of Customer)とは
#10 カスタマーサクセスソリューションの選び方(前編)
#10 カスタマーサクセスソリューションの選び方(後編) ←今回これ
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
第4章 なぜカスタマーサクセスのソリューションを自社開発せずベンダーから購入すべきなのか
あなたの会社の戦略や組織がいくら幅広いとしても、あなたの会社はカスタマーサクセスのソリューションを提供する会社ではありません。
であれば、すでに同領域の一流ソリューションが利用可能な中で、なぜあえて自社開発をする必要があるのでしょうか?カスタマーサクセスのソリューションを専門に扱っている企業は、その分野のために存在しています。彼らのコア・コンピタンスは信頼に足るものです。
自社開発の方が時間も費用もかかる
現実に目を向けましょう。時間とお金はいくらあっても足りないものです。なぜあなたのコア・コンピタンスではない分野に費やす必要があるのでしょうか。
また、自社開発に必要なのはIT部門のリソースだけでありません。ほぼすべての社内部門を巻きこみながら、コンセプトの考案、システムの構築、実装、アダプションまで行わなくてはなりませんし、リリース後もメンテナンスやアップデートが必要になります。テクノロジー市場はとても速いスピードで変化しています。本来の市場での成長を維持しながら、同時にカスタマーサクセス分野にも神経を配り、セキュリティ、ソフトウェア、インフラのすばやい変化に対応するこまめなアップデートを行う体制は整っていますか。
カスタマーサクセスは単なるテクノロジーでなく競争優位性をもたらす
フォーブス誌の記事を紹介します:
“あなたの事業が家具の小売業だとしましょう。だととすると、たとえいくら素晴らしいテクノロジーを生み出したとしても、それは差別化要因にならないでしょう。またそのテクノロジーによって、事業の運営コストを下げつつより質の高いサービスやプロダクトを提供し他店よりも消費者から選ばれる店になるというのも考えにくいでしょう”
要は、カスタマーサクセス戦略は差別化要因になり得るが、一方でそのためのテクノロジーを自社開発したとしても差別化要因にならない、ということです。さらに言うと、真のビジネスパートナーたり得る一流のソリューションを使ってみれば、それが企業のサービスレベルを引き上げ、競合他社を引き離すために必要なありとあらゆる機能を備えている洗練されたテクノロジーだと信じて疑わなくなるでしょう。
自社開発システムはスケールしない
カスタマーサクセスのソフトウェアは膨大なデータを収集し、すべてを迅速かつ効果的に管理する必要があります。あなたの自社開発システムは、データストラクチャ、データストレージ、データアクセスをとりまく莫大な量の情報を注意深く処理し、スケーリングしなくてはなりません。また、次々に発生する新しいデータも統合しなくてはなりません。
先述のとおり、テクノロジー業界はめまぐるしいスピードで変化します。そのペースに追いつく準備が整っていなければ、自社開発システムはたった数年の内に使われなくなってしまうでしょう。
ビジネス・ビーの記事を紹介します:
“テクノロジーは常に進化しています。新しく出てきたプラットフォームに適応するのが難しいと感じる場面もあるでしょう。自社で開発したソフトウェアは、しばらくは問題なく動作するかもしれませんが、数年後にはまったく使いものにならない可能性もあります。結果、新しいソフトウェアを開発するため更に資金を投入することになるのです”
カスタマーサクセスのソリューションは、継続的に進化を繰り返すことで常に最適なシステムを提供するものでなければなりません。更に、カスタマーが継続利用してくれるかどうかは、カスタマーサクセスをスケールさせられるかにかかっています。あなたの事業と同様、「スケールさせられるかどうか」はカスタマーサクセスの成否を左右する重要ファクターなのです。
カスタマー各社の事業に固有の要求に合わせてソリューションをスケーリングさせる機能は、専業ベンダーのコア・コンピタンスです。
カスタマーサクセスのソリューションをどう購入するのか
カスタマーサクセスのソリューションを契約する準備はできましたか?
ソリューション選択にはコミットメントが必要だということは、ご承知の通り最低限覚悟すべきことです。御社にとり最適なソリューションを見つけなければなりませんし、それには時間と労力が必要です。慎重に選びましょう。
以下、私たちが推奨する購入までのプロセスを紹介します。
1) あなたの会社の要件レベルを明確にする
CRM Buyer社はカスタマーサクセス・ソリューションの要件を事業要件に基づき3つのレベルに分けました。第3章で特定した、あなたの企業のシステム要件、タッチ・モデル、成長ステージと照らし合わせることで、カスタマーサクセス・ソリューションにどのようなプロダクト、サービスを求めるのかを絞り込むことができます。
レベル3
最も低いレベル階層です。「ノータッチ」モデルの企業に適しており以下の要件を含みます。
- セルフサービス型のサポート機能
- セルフトレーニング、セルフチュートリアル
- プロダクト内のガイド表示
- 「1対多」型のメッセージ送信を含む自動エンゲージメント機能
- 利用状況と顧客行動の追跡および分析結果をダッシュボードに表示
レベル2
中規模または「ロータッチ」モデルの企業にとって有益なレベル階層です。レベル2はレベル3に含まれる要件を全てカバーしつつ以下の要件も含みます。
- アダプション状況のモニタリング:プロダクトの使用状況、傾向を追跡することでアダプション状況を観察し、推奨されるアクションを提示する
- サーベイ調査モニタリング:NPSアンケートなどを配布し、結果を追跡し、分析データに基づいて推奨されるアクションを提示する
- アップセル・契約更新のモニタリング:アップセル、クロスセルの機会を発見し、また契約内容をモニタリングし、カスタマーに更新を勧めるベストなタイミングを通知する
レベル1
大企業または「ハイタッチ」モデルの企業に最適なレベル階層です。レベル1は、レベル2に含まれる要件を全てカバーしつつ以下の要件を含みます。
- 専担または選定されたカスタマーサクセスマネジャーまたはチーム向けに必要な機能を提供する
- カスタマーが掲げる目標、課題などを分析して要約し、四半期毎の事業レビューを作成する
- カスタマーサクセス・ソフトウェアをより良く利用できるよう、他社の活用事例に基づくアドバイスを提供する
- トレーニング機能を提供する
システムに求める要件がはっきりとイメージできたら、さっそくオンラインでカスタマーサクセス・ソリューションを探してみましょう。内容を詳しく調べ、あなたが求めるものに一番近いソリューションを見つけたら、デモ見学や営業担当との電話をセッティングしましょう。
2) 詳細を明確にする
デモの最中や営業担当と電話で話す時には必ず以下の点について詳細を質問してください。
機能性
- カスタマーの購入履歴、プロダクトの利用状況、アダプションの状況、キーマイルストン、サポートケース、支払い履歴、参考アクティビティ、アンケートへの回答など、360度全方位的なカスタマー情報を表示するダッシュボードがありますか
- 自分たちで、カスタマーヘルススコアのモデルを定義したり、自動化したりできますか
- 特定の指標やKPIを用いて、カスタマー、ユーザ、またはカスタマーグループごとに、アダプションの状況を容易に追跡することができますか
- 平均的なカスタマーから最優良カスタマーまで、様々な指標に基づいて評価することができますか
- 契約更新日や業種といった、すでに運用中のCRMシステムに登録済みな、あらゆるフィールド毎の全データとレポートをフィルタリングすることができますか
- 第三者の顧客満足度調査システムと統合することができますか、and/or システムからアンケートを送信できますか
- 既に運用中のCRMシステムと連携し、同一ユーザIDでログインできますか。それとも別ユーザとしてログインする必要がありますか
- 運用中のCRMシステムの機能性を100%復元できますか。それとも別々のユーザインターフェースで作業する必要がありますか
- 運用中のCRMシステム内でタスクを作成できますか
- 四半期事業レビューの資料作成や月次のヘルスチェックなど、プロアクティブかつ定期的な活動をシステム内で管理できますか
- リスクに直面しているカスタマーについて早期に警告してくれますか。また使いやすいワークフローに基づいたリスクカスタマーの管理ができますか
- アップセル機会についてのアラート通知はありますか。また使いやすいワークフローに基づいたリスクカスタマーの管理ができますか
- カスタマーサクセス部門は、早期警告やアップセルのトリガー毎に、推奨アクションの標準リストを受け取ることができますか
- プロダクトやサービスのアダプション状況、またはサクセス情報に関しカスタマーにプレゼンするためのPDFデータを作成できますか
- 様々なオーディエンスに向けた報告や指標トレンドを提示するため、CSMプラットフォーム上でダッシュボードをカスタマイズできますか
セキュリティ
- 運用中のCRMシステムの認証モデルと統合させられますか
- データはどこに保管されますか、運用中のCRM上など信頼できる場所に保管されますか
- どのようなセキュリティコントロールを実施していますか
実績
- あなたのカスタマーの一般的な企業規模はどの程度ですか。私たちの企業規模と同程度ですか
- あなたのカスタマーの一般的な企業成熟度はどの程度ですか。私たちの企業と同程度ですか
- あなたのカスタマーの一般的なタッチ・モデルは何ですか。私たちの企業のモデルと類似していますか
拡張性
- システムにデータをアップロードしたり、またはシステムからデータをダウンロードするためのAPIを公開していますか
- 運用中のCRMシステム上に構築したカスタムオブジェクトやワークフローは自動的に連携されますか
- 柔軟でカスタマイズ可能なレポート機能はありますか
- 使用状況のデータを企業、インスタンス、ユーザレベルで追跡できますか
統合性
- 以下のシステムと統合することができますか
- Marketo、Eloqua、Act-On、Pardot、Hubspotなどのマーケティング自動化システム
- Google Analyticsなどの分析システム
- DeskやZendeskなどのサポートシステム
- ZuoraやAriaなどの請求システム
- LithiumやGetSatisfactionなどのコミュニティー管理プラットフォーム
- Salesforce、Netsuite、Microsoft、Oracle、SAPなどのCRMシステム
- リアルタイムでデータにアクセスできますか
- 内部データベースや他カスタムシステムと自動的にデータを同期させるデータ統合フレームワークを提供していますか
分析性
- カスタマイズ可能なダッシュボードはありますか
- 以下の項目を分析できますか
- ヘルススコア
- チャーン予防、契約更新、アップセル機会
- 顧客満足度、アダプション状況
- カスタマーサクセス部門のオペレーション
データサイエンス
- 下記目的のため、御社のデータサイエンス・サービスを活用できますか
- データ分析に基づく、チャーン兆候を早期発見
- データ分析に基づく、アップセル・クロスセルの機会発見。更にカスタマーに勧告する適切なタイミングの特定
- ヘルススコアモデルの定義支援
- データサイエンス・プロセスにおいて外部データを使うと御社の内部データが増強されますか
3) ROIを見える化する
近年、テクノロジーを活用したソリューションに対し潤沢な予算、特に年度中に予算を増やすような企業はほとんどありません。従って、カスタマーサクセスのソリューションがもたらす利益を目に見える形で提示する必要があります。そのためには三つの利点を定量的に説明するとよいでしょう。
その1:早期介入によるチャーン防止
下記項目を算出しましょう:
- 毎月発生しているチャーン人数/件数
- 同チャーンの金額に換算した価値
- チャーンのうちコントロール不可能なものの件数(例:カスタマーは倒産しなかったなど)
- コントロールが可能なチャーンのうち、早期介入できていたら未然に防ぐことができたであろう件数
- 早期介入によってチャーンを防止できた場合に見込める年間の増収額
- 防止できたチャーンの(複数年にわたる)ライフタイムバリュー
その2:アップセルの拡充
下記項目を算出しましょう:
- 全カスタマーの人数
- 正しいタイミングでアプローチした場合、追加で別のプロダクトやサービスを購入しそうと想定される比率(%)
- 追加購入される可能性のあるプロダクトやサービスの平均価値
その3:カスタマーサクセス部門のスケール化
下記項目を算出しましょう:
- 現時点で在籍している、アカウントマネジャーの人数
- マネジャー1人当たりの担当カスタマー数
- カスタマーサクセスのソリューションを導入することで増加しうるマネジャー1人あたり担当人数
- 同ソリューションを導入することで抑制しうる、新任メンバーの人数
- 新任メンバーの抑制で削減できるコスト
4) 綿密な実行計画を作成する
すべてのソリューション導入時に言えることですが、期待値管理はカスタマーサクセスのソリューションを購入する上でも非常に重要です。最終的にはすべての部門から賛同を得る必要がありますが、その前にまず、現実的なプロジェクト計画を立てなくてはなりません。
具体的には以下点を検討・計画しましょう。
- プロジェクトのゴールとその評価方法(導入を想定しているカスタマーサクセス・ソリューションと方向性が合っていることを確認してください。)
- 上記ゴールの達成度を評価するプロセス
- 導入を想定しているソリューションのベンダー側及び自社側それぞれのプロジェクトマネジャーおよびIT担当者
- プロジェクトに対する役員クラスの支持者
- プロジェクトの展開を示すタイムライン(下記例を参照)
タイムライン例
2~4週目
- 初期ないし最初のマイルストン設定
- アジャイル・メソッドに基づくアウトライン作成
- SalesForceに表示された使用状況を基づく360度全方位の把握
4~8週目
- オンボード完了
- オペレーション開始・展開
- リスク、アップセルの対応集作成
8週目以降
- データサイエンスを活用し、リスクやアップシェルの予兆見極め
- 営業部門、その他の部門への展開
5) 賛同を得る
この段階に至ると、カスタマーサクセスのソリューション候補は既に1?3件まで絞り込まれているでしょう。最善の意思決定をするためには、キーパーソンの賛同を得る必要があります。
ソリューションの導入には、カスタマーサクセス戦略とそれを実行する組織体制が必要なことを忘れないでください。関係者にソリューション導入について説明する時は(1)カスタマーの利益となる、(2)社内の関係者・各部門の役に立つ、という点を強調する議論を組み立てましょう。
例えば、以下のようなアピールができます。
・プロダクト部門は、カスタマーがどの機能を好み、またはどのようなタイプのカスタマーがどのプロダクトを使用しているかを理解できるようになる
・マーケティング部門は、既存カスタマーの紹介/口コミや、彼らの生の声、プロダクトの支持層を理解できるようになる
・営業部門は、アップセルやクロスセルの機会に加え、そういったカスタマーへいつ声かけしたらよいかも理解できるようになる
・トレーニング、オンボーディング、実装を担当する各部門は、彼らの業務効率性を分析・評価・モニターできるようになる
・サポート部門は、知りたい時にすぐにカスタマーヘルスを評価・確認できるようになる
その他の利害関係者に対しても配慮すべき点があります。
CEOとCFO
- CEOやCFOが、年次目標に寄与しないソリューションを承認することはありえません。あなたの提案内容が、企業全体の年次目標や戦略に合致していることをよくよく確認してください
- CEOやCFOは、成果の見えないテクノロジープロジェクトの山にうんざりしています。社内の賛同者にも触れながら、プロジェクトの成功に対するベンダーのコミットメントをぜひ紹介してください
- CEO、CFOにとり目に見える指標がすべてです。プロジェクトの成功をどのように評価するのか分かりやすく説明してください
- ベンダー提示価格だけ説明すると混乱を招く恐れがあります。肝心な初期費用と成長に伴いに付随して継続的に発生するコストも試算しセットで説明しましょう。同時に、ROIの試算結果も明確に伝えましょう
IT部門/エンジニアリング部門/オペレーション部門
以下の問に答えを準備しておきましょう。
- 運用中のシステムとどのように連携させるのか。CRMシステムの一部として運用することになるのか、それともまったく別のツールとして運用するのか
- 運用中の他のテクノロジーと統合できるのか、重複してはいないか
- 今、手元にデータはあるのか。新しいソリューションを導入した場合、現在収集しているデータからどれだけの付加価値を期待できるのか
- 導入にどれくらいの期間を要するのか
忘れないでください、カスタマーサクセスのソリューションの導入で期待されるリターンは長期的なものです。導入の結果、労働時間の大幅削減、莫大な利益に繋がります。
6) 価格と契約内容を交渉する
導入するソリューションが決まったら、最も楽しい(または最も気の重い)ステップが待っています。そうです、予算額、成長ステージ、タッチ・モデル、カスタマイゼーション要件、必要なプロダクト数など詳細を交渉・決定するプロセスです。
カスタマーサクセスのソリューションベンダーは、あなたの真の事業パートナーとなります。そのことを忘れずに、購入契約という最終ステージでは正直に、率直に、そして柔軟に望んでください。
あなたのプロダクトやサービスについても同じことが言えるように、導入にギブアップしたくなることがあるかもしれません。でもそこを踏ん張って真剣に取り組めば、カスタマーサクセスのソリューションへの投資がもたらす便益は計り知れません。
本Gガイドが御社にとり有益なロードマップとなり、御社のカスタマーサクセスへ成功がもたらされることを願っています!
「G-ガイド #10 カスタマーサクセスソリューションの選び方(前編)」もぜ併せてご覧ください!
・第1章 なぜカスタマーサクセスが重要なのか
・第2章 なぜカスタマーサクセスのソリューションが必要なのか
・第3章 採用すべきソリューションに必要なシステム要件はなにか