
Gainsight社の豊富な資料の中からカスタマーサクセス初心者に向けたガイド “The Essential Guide” の和訳版を「G-ガイド」と名付けてシリーズでお届けします。
#01 カスタマーサクセスとは
#02 チャーンとは
#03 カスタマーサクセスの指標とは
#04 カスタマーライフサイクルとは
#05 カスタマーサクセス予算の立て方
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(前編)
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(後編) ←今回これ
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
第6章 ” カスタマーサクセスマネジャーを失うと想像を絶する悲惨な状態を迎えます” →カスタマーサクセスマネジャーには記録・保存をマストにしましょう
ハイタッチ担当のカスタマーサクセスマネジャーは担当するカスタマーと長く深い関係を築くため、カスタマーに関わる「全社的な」知識を持つようになります。
全社的な知識、はあらゆる情報を含みます。カスタマーの利害関係者1人ひとりがあなたのプロダクトをどう思っているか、という個別詳細なものから、会社全体のチェンジマネジメント課題といった経営レベルに至るものまで、彼・彼女が知り得るありとあらゆる情報を含みます。
つまり、カスタマーサクセスマネジャーはカスタマー情報という非常に重要な宝の宝庫です。?同時にそれは、彼らが転職したり社内異動した場合、組織に莫大なマイナス影響を及ぼすリスクを意味します。
従い、カスタマーサクセスマネジャーにはカスタマーとのやり取りをすべて記録してもらいましょう。それを究極のメモツールとして運用することが重要です。カスタマーサクセスマネジャーに、ツール上で重要な活動情報(カスタマーとの会議や契約更新に関する情報、重要な電子メールや会話など)を詳細な注釈と共に記録してもらうのです。
例えば:
・EBR(カスタマーの経営幹部向けレビュー会議)後にフォローアップした時
・カスタマーと重要な内容を電子メールでやりとりした時
・カスタマーの戦略について電話で話を聞いた時
システム上、 すべての活動記録を時系列で保存し、ツールから自動通知を受けた他のユーザーも簡単にアクセスできるようにしましょう。
Gainsight社のツールにおけるタイムライン機能はSalesforceの連絡先に繋がっているため、カスタマーサクセスマネジャーは連絡すべき特定の個人を素早く検索し、彼・彼女のタイトル、役割、連絡先などを簡単に更新できます。
カスタマーサクセスマネジャーに対し、カスタマーとのやりとりの記録やカスタマー情報の入力・保存を徹底しましょう。定期的に(つまり毎週)情報を更新・記録することをお勧めします。またカスタマー側にも更新してもらうことをお勧めします。
万一、カスタマーサクセスマネジャーが1週間以上、情報を更新しなかったらCTAを発動しましょう。そして、これらの情報はすべて時系列で共通フォーマットによる文書として一元管理できる場所に記録・保存し、彼らが万一不在になる事態が生じても、カスタマーと良好な関係を維持できるようにしましょう。
第7章 ” 大口カスタマーは自社の事業成果に責任をもって欲しい” →カスタマーサクセスマネジャーとアカウント責任者とが「カスタマーサクセス計画」で共通目標を共有しましょう
営業チームは、各アカウントの収益をどう拡大するかに関するアカウント攻略計画を持っています。カスタマーサクセスマネジャーにとってそれは「カスタマーサクセス計画」です。
カスタマーサクセス計画とは、カスタマーの成果目標をどう達成するかに関するカスタマー攻略計画です。攻略ロードマップとも言えます。
カスタマーサクセス計画はカスタマーと一緒に策定できますが、同時に、同カスタマー向け事業拡大戦略を社内で検討・調整するのにも使えます。
以下4タイプのカスタマーサクセス計画をまず作成し、必要に応じて他の例を参照することをおすすめします。
1)カスタマー目標計画(カスタマーと協働策定)
この計画は、カスタマーサクセスマネジャーが各カスタマーと密に会話してつくります。具体的な内容は、 (1) 次期四半期(または年度)の目標定義と概要説明、(2) 同目標に関する数字目標と重要な達成基準、です。
目標と達成基準を議論して設定するのは、早ければ早いほどよいです。プリセールス時の議論の一環として目標を設定するのが望ましいです。
この計画は、プリセールスチームからオンボーディングチームへ、そしてカスタマーサクセスマネジャーに引き継がれます。
2)回復計画(社内向け)
この計画は、ヘルススコアが赤いカスタマー、すなわち関係性が赤信号で関係回復が喫緊課題なカスタマーに対処するための社内計画です。ヘルススコアを改善するため、4つ以下に絞り込んだ重要目標をリスト化する必要があります。
同目標は、カスタマーサクセスマネジャーの仕事になることもあれば、部門横断な仕事になることもあります。プロダクトのバグ修正かもしれないし、サポート問題のリスク対応かもしれません。要は、あらゆるチームが行動計画の実行担当になりえるということです。
カスタマーサクセスマネジャーが同計画の素案を作り、マネジャーと議論して同意を得たうえで、カスタマーと共有し、進捗を管理することをお勧めします。
3)アダプション計画(社内向け)
この計画は、カスタマーのアダプションの深さ(DAU成長)と幅広さ(機能の採用)の両面から事業を成長させるために、カスタマーサクセスマネジャー自身が目標を設定し、達成するのに使うものです。
カスタマーサクセスマネジャーが各四半期の初めに、アダプション指標別の目標をリストアップします(例えば、DAUを20%増やす、または四半期末までにX、Y、Z機能を使用するクライアントを獲得するなど)。
4)アカウント計画
この計画は、カスタマーサクセスマネジャーと営業担当が協業して作るアカウント計画です。アカウントごとに事業拡大/アップセルの推進と口コミ促進に必要なアクションを検討するのが目的です。
第8章 ” あなたの上司は同じ失敗を繰り返したくありません” →電子メールアシスト機能を上司にプレゼントしましょう
カスタマーサクセスマネジャーは時間をより戦略的に使いたい人たちです。電子メールを書いている時間があるなら、カスタマーと会ってカスタマーを支援したいと思ってます。
一方、テックタッチと違い、ハイタッチのカスタマーに定型の汎用メールは機能しません。彼らにはカスタマイズしたメッセージや、カスタマーサクセスマネジャーが心のこもった一筆を追加することが往々にして必要です。
しかし、カスタマーサクセスマネジャーが電子メールをゼロから書き起こす必要もありません。電子メールアシストを使えば、一般文例から状況別にカスタマイズされたものまで、予め用意されてた電子メールのテンプレートをベースに編集・個別化することが可能です。
標準テンプレートを使うことで、カスタマーサクセスマネジャーの貴重な時間を節約するだけでなく、カスタマーとのコミュニケーションもより一貫したものになります。
この電子メールアシスト機能はいろいろな場面で活用できます。私たちのお気に入り活用法を紹介します:
・EBR(経営幹部向けレビュー会議)の日程調整を申し入れる時
・NPS調査結果に基づき、特定スコアのカスタマーへ返信する時
・契約更新時期が近付いているカスタマーへ連絡する時
・イベント(Pulseのセッションなど) への招待状を送る時
・利用度合いが低下したカスタマーへ連絡する時
・プロダクトリリースをお知らせする時
カスタマーサクセスマネジャーはこの電子メールアシスト機能を使いCTA内の手順書タスクから直接メールを送信できるため、どのような「もし?なら、その場合」シナリオにも活用することができます。
たとえば、NPS調査に低い評価回答をしてきたカスタマーがいた場合、利用可能な電子メールアシスト機能と共にCTA機能がトリガーを発信します。カスタマーサクセスマネジャーはそれを受け、カスタマイズされたメッセージを送信できます。
同様に、契約更新日が90日内に迫っているカスタマーに対し、同カスタマーの固有データ(契約更新日など)があらかじめ自動反映された電子メールを送信することもできます。
第9章 ”拡大しなければ縮小を意味ます” →大口クライアントを継続的に拡大させしましょう
Gainsight社のカスタマーサクセスマネジャーは、売上規模が最大クラスのカスタマーでさえ、取引できてない事業部門や機能部門(営業など)に対し、アップセルなどの収益拡大機会がないか常に追求・模索しています。
既存カスタマーに対する拡大機会を取り逃さないための秘訣は2点です:
(1)カスタマーサクセスマネジャーとアカウント責任者とが定期的に連絡をとりあい常に足並みを揃えて行動する
(2)あるカスタマーに新たな収益機会を提案する期が熟した、ということを知らせる明確な指標を運用する
(1)については、カスタマーサクセスマネジャーと営業担当者が協働で作成し共有するアカウント計画がお勧めです(アカウント計画は第6章を参照)。
アカウント計画は、カスタマーサクセスマネジャーと営業担当が常に拡大目標に向かいつつ同じ土俵で行動を調整し、カスタマーにとって最適なタイミングで最適な役回りを果たすための最初のステップです。
(2)については、新たな収益機会を提案する期が熟したカスタマー候補であるという「フラグを立てる」方法がいくつかあります。例えば以下の方法です:
実装スコアカード
アップセル機会(または逆にプロダクト未活用リスク)があるかどうかカスタマーサクセスマネジャーに警告する最も有用なスコアカードの1つがこの「実装スコアカード」です。
実装スコアの値が非常に高い場合、カスタマーがより多くのライセンスを必要としているか、または他の機能部門(営業、マーケティングなど)が潜在的にライセンスを必要としていることを示唆します。
Gainsight社では、カスタマーサクセスマネジャーが定期的に既存カスタマーの実装スコアをチェックします。このスコアは「グリーン」~「レッド」に分かりやすく色分け表示されます。
「グリーン」なカスタマーにはカスタマーサクセスマネジャーが積極的に拡販機会を探索します。「赤」ないし「オレンジ」のカスタマーには未展開のライセンスの提案にむけ取り組み開始します。
”プロダクトのホワイトスペース” ダッシュボード
アップセルする時に把握しているべき最も重要なカスタマー情報は、彼らが既に購入済みのプロダクト情報です。既に持っているプロダクトと、購入しうるプロダクトとの差分が「プロダクトのホワイトスペース」と呼ぶものです。要は、カスタマーが購入できるがまだ購入していないプロダクトの一覧表です。
この一覧表を使うことで、契約更新前にカスタマーと今後について打ち合わせる際、新しいプロダクトの購入に関心を向けることができます。カスタマーサクセスマネジャーや営業担当者はこの一覧表を常に手元に用意しましょう。Gainsight社ツールのダッシュボードにインポートすることをお勧めします。
特定機能の利用状況
Gainsight社では、私たちのカスタマーが「それ無しではいられない(stickiest)」機能の使用状況をカスタマー毎に追跡しています。
具体的には、利用データに基づき機能別スコアカード(「月間ページビュー数 ÷ フルユーザー数」などの指標含む)を作成しています。どのカスタマーが、どれくらい頻繁で、どの機能を使い、どの機能にどう慣れていく傾向があるか、を毎週追跡しています。
私たちが追跡する7機能のうちの5つ以上が「グリーン(利用度が強)」なカスタマーは、私たちのプロダクトを強力に使っている健全なユーザーです。
カスタマーサクセスマネジャーはこの追跡データに基づき、各カスタマーがプロダクトの利用に苦労する箇所を特定します。そして彼らが1日も早く手慣れてくれるよう、同機能の活用事例とその習得法をカスタマーに紹介します。どんなマネジャーでも上手く会話できるよう、美しく体系化されたツールが用意されています。
担当カスタマーがもし健全なユーザーなら、それは彼らがプロダクトに高い価値を実感していることを意味するため、自信を持ってアップセルやクロスセルに向けた会話ができます。
実装CTAと同様、カスタマーが「健全な」利用状況に無事シフトしたら収益拡大をフォローアップするトリガーを発するCTAの設定をお勧めします。
第10章 ” 社内で猫を群れさせる(= 部門連携する)必要があります” →組織横断プロセスを定義しましょう
サービスチームの場合:”イニシャルバリューモーメント” を設定しましょう
新規カスタマーがオンボードチームからカスタマーサクセスチームへ正式に引き継がれる瞬間は、絶対に失敗したくない重要な瞬間です。
サービスチームは、カスタマーサクセスチームが関係を構築し始める前に、プロダクトがカスタマー向けに正しく設定され、プロダクト価値を即実感できる状態にする必要があります。これを「イニシャルバリューモーメント(IVM)」と呼びます。
イニシャルバリューモーメントは、具体的にサービスチームがカスタマーサクセスチームに引き継ぐ段階で満たしているべき標準基準として定義されます。
オンボーディングでは、展開ライセンス総数の約1割をまずはパイロットグループへ展開します。例えば、ユーザー200名のチームが契約した場合、最初はパイロットグループ20名へ、その後順次他の人へオンボードプロセスを展開していきます。
パイロットグループへのオンボーディング中にイニシャルバリューモーメントがヒットしたら、そこからカスタマーサクセスマネジャーが関与を始めます。
イニシャルバリューモーメントの定義例:
プロダクトの利用状況の健全度
・プロダクトがサクサク利用されている(例えば、HABITスコアカードが2週間グリーンを維持)
プロダクト利用状況の幅
・2週間、最低5機能が頻繁に利用されている(スコアカードでチェック)
戦術的な基準
・完了インスタンスに関する詳細が文書化されている、管理者が問題なく管理・運用している、など
ただし、パイロットグループのイニシャルバリューモーメントがヒットしても、サービスチームの仕事がゼロにはなりません。引き続きオンボードすべき更に多くのカスタマーが待っているからです!
パイロットグループのイニシャルバリューモーメントとは、要はカスタマーサクセスチームが関係構築プロセスを開始するタイミングということです。引継ぎの瞬間にボールをポトンと落としてしまわないよう、部門横断プロセスをしっかり踏みましょう。
プロダクトチームの場合:クライアントをパートナーとして扱いましょう
最も貴重なプロダクトフィードバックはカスタマーから直接得られるものです。従って、カスタマーサクセスマネジャー任せにせず、プロダクトチームがカスタマーと積極的に直接・双方向に会話することをお勧めします。
ハイタッチなカスタマーとこのような接点を作る方法:
カスタマー諮問委員会(四半期ごと)
・招待制のカスタマーwebセミナーを開催します。プロダクトチームからプロダクトロードマップを紹介して、開発中の機能や将来の重点領域に関するフィードバックを直接聞きましょう。
個別カスタマイズしたリリースアナウンス(リリース時)
・プロダクトリリースのお知らせメールを送信します。電子メールアシスト機能を使ってオリジナルな文章を追加したり、カスタマー毎に刺さる特定機能を強調しましょう。
プロダクトリスクCTA(継続的に)
・カスタマーがプロダクトで苦戦する箇所を特定し、フィードバックを収集するためのプロダクトリスクCTAを作成します。問題がより深刻な場合、カスタマーサクセスマネジャーは進捗アップデートを社内に周知し、プロダクトチームの誰かにこのCTAを割り当ててカスタマーとの会話に参加してもらいましょう。
サポートチームの場合:リスクを管理しましょう
カスタマーサポートは孤立して存在する機能ではありません。サポート体験がカスタマーの不満リスクになることが多いため、リスクに対しては状況を先取りし、自社内関係者やカスタマー社内関係者と協働することが必要です。
そのためには、サポートリスク管理プロセスをしっかり定義して運用することが大事です。
Gainsight社のサポートリスク管理プロセスは、基本的に「サポートリスク」と「バグリスク」の2つのリスクに対処します。また「プロダクトリスク」に関しても、サポートチームはオンボードチームおよびカスタマーサクセスチームと必要に応じ組織横断的に連携します。
「サポートリスク」は、CTAとスコアカードを組み合わせて管理します。次のいずれかに該当するカスタマーが現れた段階でCTAが発動されます。
・サポートチケットが大量に発行された
・問題解決依頼チケットが長時間オープンな状態にある
・優先度が[高]または[緊急]にもかかわらず、チケットが指定期間内に解決されていない
CTA発動の敷居値はカスタマー毎に設定します。同じカスタマー社内でも事業部ごと個別に設定することもあります。サポートチームは解決に至るまでの目標と我々がコミットしたいカスタマー体験の質を考慮して敷居値を設定します。
「バグリスク」は、プロダクトバグとして分類されたチケットに焦点を当て、サポートリスクと非常に似たプロセスに基づき管理します。次のいずれかの状況が生じた時にバグリスクCTAが発動されます。
・バグチケットが大量に発行された
?敷居値はカスタマーの規模に応じて設定されます
・優先度の高いバグチケットが30日以上オープンな状態にある
両リスクとも、リスクCTAが一旦発動されると、手順書内に定義されたタスクを担当するカスタマーサクセスマネジャーがそれぞれのサポートマネジャーの支援につきます。
サポートリスク、バグリスクとも、各カテゴリ用のスコアカード項目を設定し、それぞれリスクCTAにリンクさせます。特定リスクCTAの有無は、対応するスコアカードの色に影響を与えます。
緑: CTAが存在しない
特定リスクの徴候はありません
黄:CTAが存在する
特定リスクが検出可能かつ客観的な兆候として認められます
赤:カスタマーサクセスマネジャーによるCTAフラグ
”会社がより高い関心とより多くのリソースを割くべきリスクが存在します ”
最後に
もしあなたが戦略アカウントを担当した経験をお持ちなら、一連のハイタッチプロセスを途切れることなく実行するのがどれだけ重要かを肌身で実感しているいることでしょう。
この記事が、最高のハイタッチなカスタマーサクセスをする上で役に立つプロセスを知り実行するのに役立つことを願っています。