カスタマーサクセスのROI(投資対効果)~評価手法からROI改善への戦略まで~

カスタマーサクセスに人員を配置したり、システムに投資をしたりしようとする企業では、カスタマーサクセスのROI(投資対効果)が必ずと言っていいほど議論になります。

本記事では、カスタマーサクセスのROIの評価方法から、ROI改善に向けた戦略までをご紹介します。「そもそもカスタマーサクセスにROIの考え方はあるの?」、「カスタマーサクセスのROIが良いことを説明したい」、という方は特に必読です。

具体的にROIを考えることの難しさや付随する組織・責任の考え方に関する応用編の記事「カスタマーサクセスのROI(投資対効果)とは?」もぜひ合わせてチェックください!

 

Index

1)カスタマーサクセスのROI評価方法

└カスタマーサクセスをどう測定するか

└カスタマーライフタイムバリューとその計算式

└カスタマーサクセスに関するKPI

 

2) カスタマーサクセスのROIを改善する5つの戦略

 

1)カスタマーサクセスのROI評価方法

カスタマーサクセスをどう測定するか

 

 

一般的に、プロダクトやサービスにおけるマーケティングやプリセールス(新規顧客の営業活動)のROI(投資対効果)は、カスタマー獲得コストを意味する、CAC(カスタマー・アクイジション・コスト)という指標で評価します。カスタマー1人当たりの契約獲得にかかるコストです。このCACが高いSaaS企業は、投資を回収して、さらに収益性を上げるのにかなり苦心することになります。

一方、カスタマーサクセスの場合、あらゆるポストセールス(契約後の営業活動)へのROI評価を統一指標で設定するのは、なかなか難しいのが実際のところです。

契約後のカスタマーがたどるジャーニーには、複数のフェーズ(オンボーディング、アダプション、エクスパンション、契約更新など)があり、それぞれが多様なベンダー機能(サービス、トレーニング、カスタマーサクセス、営業など)の影響を大きく受けます。そのため、それぞれのフェーズに対応する評価指標があるのです。

以下、具体的な指標のいくつかをご紹介します。

 

カスタマーライフタイムバリューとその計算式

前段でお伝えしたように、カスタマージャーニーの全フェーズ、全タッチポイントを評価する統一指標はありません。しかし、カスタマーサクセスの収益貢献度の評価に使える強力な代用指標に、『カスタマーライフタイムバリュー(CLTV)』があります

それは、カスタマー当たり平均月間収益を水準にして影響を測定・評価するもので、カスタマーの契約期間(月数)が長いほど、カスタマーの生涯価値と収益性への貢献度が大きくなっていきます。

ある定義により、カスタマーライフタイムバリュー(CLTV)は、チャーンレート(解約率)に基づく、カスタマー当たりの年間収益(粗利率にて調整)として、以下のように計算されます。

 

カスタマーライフタイムバリュー(CLTV) 

=  {(カスタマー当たり平均月間収益) × (粗利率)} ÷ (チャーンレート)

 

例えば、カスタマー当たり平均月間収益が5,000円で、粗利率が30%で、チャーンレートが10%の場合、

“(5,000×0.3)÷0.1=15,000”

 

つまり、CLTVは15,000円になります。

 

この計算式において、チャーンレートは、すべてのカスタマーとのタッチポイントでの取り組み(すなわち、オンボーディング、カスタマーサポート、アダプションなど)の総合的な結果です。また同様に、カスタマー当たり平均月間収益は、クロスセルとアップセルによる収益拡張も含んだ総合的な結果でもあります。

つまり、CLTVは、「カスタマー体験を測る指標」と「契約後の収益拡張を測る指標」、それら両方の関数であるといえるのです。

カスタマーサクセスに投資した金額は、カスタマー当たり平均月間収益、またはチャーンレートに影響を与えます。よって、これらの指標を継続的に測定し、CLTVと合わせて分析することで、あなたの事業がどのように価値を創造しているかが明確になります。

CLTVを増やすには、ポストセールスによる月次の収益拡張、または、リテンション率(カスタマー定着率)の向上のどちらかへ投資する必要があります。そして、CACとCLTVが向上するにつれて、SaaS事業の収益性は改善していきます。

 

[注意事項]

SaaS事業がネガティブチャーンを達成する理想状態( =エクスパンション > チャーン)の場合は、上述のCLTV計算式が有効でなくなります。

その場合、契約後の各機能に対する投資対効果(ROI)は、次のように計算します。

投資対効果(ROI) = (プログラムの正味効果 / プログラムの費用) × 100

 

カスタマーサクセスの視点では、次のような計算式です。

投資対効果(ROI) = ((正味収益リテンション※1) / (所要費用※2))× 100)

 

※1:正味収益リテンション = ARR(または MRR)- チャーン + エクスパンション

※2:所要費用 = 契約後の活動の総コスト

 

カスタマーサクセスに関するKPI

次の表は、カスタマーサクセスに関する適切な指標・KPIを整理したものです。あなたの事業に適するものを、しっかりウォッチしてください。

 

 

2)カスタマーサクセスのROIを改善する5つの戦略

カスタマーサクセスは、事業を長期的に健全に保つ上で必要不可欠なものです。

もしカスタマーサクセスチームがいなければ、カスタマーのリテンション、アップセル、積極的なメンテナンスといったポストセールス活動の責任を、営業チームとサポートチームが代わりに担うことになります。しかし、彼らには四半期の売上やトラブルの解決という、集中しなければならない目の前の目標があるのです。

では、カスタマーサクセスの活動は、いつからどう始めたらよいのでしょうか。
また、カスタマーサクセスマネージャーは、カスタマーのニーズをどう予測し、どうアカウントを最適化していくのでしょうか。そして最小コストで最大効果が発揮できるよう、ROIを最適化するのでしょうか。

この章ではそのような質問にお答えするため、カスタマーサクセスの業務効率を改善して、お金とチームの時間を最も効率的に使い、事業成果を達成するための5つの基本戦略をご紹介します。

 

1. 正しく投資する

お金は、正しいツールや人材に投資しないと、非効率に使われて浪費になってしまいます。カスタマーサクセスの最初のステップは、適切なチームづくりです。いきなり大規模な組織をつくる必要はなく、むしろどんな不確実性や持続的成長にも対応できる、スキルセットが補完しあう人たちのオープンなチームをつくるのが理想です。

現役の営業人員などに研修を受けてもらい、カスタマーサクセスチームへ移籍してもらうことも1つの方法です。新たに人を採用しないということは、追加給与の支払いが不要であると同時に、新しいキャリアへ挑戦する意欲のある営業やサポート人材の力を引き出すことにもなります。

加えて、カスタマーサクセス業務の自動化を促進するプラットフォームに投資してください。そうすることで、カスタマーのヘルススコアを常に更新することで、カスタマーの状態や幸福度をリアルタイムに正しく把握することができます。また、カスタマーサクセスマネージャーは、毎日の反復的業務はシステムに任せて、より生産的な活動に集中することができます。

 

2.小さく始めて、大きくする

カスタマーサクセスをまず実行する際に乗り越えるべき課題は、少ない費用で最大の投資効果を得ることです。ここではリーンスタートアップの考え方に則って、カスタマーに価値を提供できる必要最小限のプロダクト、いわゆるMVP(Minimum Viable Product)を意識しましょう。

そのためには、カスタマーがどんな成果を期待しているのか、プロダクトやサービスがどう彼らに役立つのかを直接カスタマーに聞くことが肝心です。そして期待されていない機能やアップセルにコストをかけることをはやめて、まずはカスタマーの基本的なニーズに注目しましょう。

カスタマーは誰もが、面倒な作業や努力をせずに、自分の抱える問題の核心に到達したいものです。初期カスタマーをあなたのプロダクトやサービスのとりこにして、長く使い続けてもらいましょう。そうすれば、あなたのプロダクトに惚れ込んで情熱的に周囲へオススメしてくれるようになります。
そんな協力者を生むための最良の方法は、最初に使った時からカスタマーが価値を感じる瞬間までを極限まで時間短縮することです。契約手続きの完了とオンボーディング開始との間をなるべく短縮することで、カスタマーが持ってくれた期待の熱を下げないようにしましょう。

 

3.あらゆるコストを細かく記録

カスタマーサクセスを経営陣へアピールする時は、新しい業務を始めるのに必要なコストについて正直に話してください。経営陣の期待値さえ正しく設定できれば、彼らが急に尻込みしてしまうことはありませんし、逆にリスクをとってカスタマーサクセスへコミットしてくれるはずです。

その上で合意が得られたら、なるべく効率的に予算配分しましょう。更新やアップセルなど収益増加につながる可能性が高い活動へ優先的にお金を使うのが良いです。

そしてチームのメンバーが思いきりカスタマーサクセス業務を進められるよう支援しながら、彼らが生み出す収益増の成果とそれに要したコストと期間についてしっかり記録します。さまざまな成功事例をそうして整理しておけば、さらなる業務の拡張につながるプレゼンの材料となります。経営陣が気に入れば、カスタマーサクセスの来期予算は大幅に向上するでしょう。

 

4.カスタマーサポートの必要性を減らす

カスタマーのトラブル解決は、カスタマーサクセスマネージャーにとって非常に労働集約的なプロセスです。したがって、このトラブル解消プロセスをなるべく合理化し、事前にリスクを最適化して、バグ修正が前提であることを理解したカスタマーと健全な関係を築くことが大切です。
そのための最良の方法は、カスタマーが自分自身で課題解決できるようにすること。重要な機能ごとにプロダクト内で表示されるヘルプ文書を作成して、カスタマーが迷うことがないように導きましょう。

カスタマーがプロダクトを自分だけで理解するのが難しい場合は、各ステップを分解して説明できる映像を用意しましょう。そうすれば、こちらの時間を節約できるだけでなく、なんとカスタマーにとっても望ましい経験を提供できるようになるのです。実際、ある企業では約9割のカスタマーがノウハウデータベースを使って、トラブルを自己解決する方法を希望しました。なぜなら、わざわざ担当者に問い合わせするよりもずっと、生産性が高いからです。

 

5.売り込み文句を数字で示す

新しい業務プロセスを定義して、カスタマーサクセスのチームメンバーに研修を受けてもらっている間に、マネージャーはチームの成果を正しく評価するKPI、すなわち重要な業績評価指標を決めます

指標の変化値や傾向値を観察することで、どの実務が機能し、どの実務を段階的に廃止すべきか判断できます。誰しもが馴染みのある用語、「チャーンレート(解約率)」に焦点を当てましょう。説得力のあるカスタマーサクセスの成功事例をつくりたければ、リテンション率(カスタマー定着率)が二桁パーセンテージ改善したことを実証するのがベストです。

そうすれば、カスタマーサクセスは効率的でない、お金の無駄だ、と言う人は現れません。さらにその延長線で、カスタマー満足度の指標であるNPSなどの振り返りアンケートを使って、カスタマーが今まで以上にプロダクトに満足していることを周知してください。リテンションの水準がコンスタントに改善したら、それをさらに強調しましょう。リテンション水準がすでに十分高い時でも、少なくとも、カスタマーサクセスが従来のアカウントマネジメント手法より効率が悪くないことを明確にしましょう。

 

+翌年に向けて仕込む

経営陣から投資などのバックアップを得るには、何よりカスタマーサクセスが持続的価値のあるものだと実証する必要があります。カスタマーサクセスの価値を、定量化できる「収益」という形で示して、再現性を証明することは、会社にとってだけでなく、カスタマーにとっても意味があることです。

現行のリソースをどううまく配分して、どんなROIを実現するのかを明確にできれば、あなたの会社は完璧な成功ルートに乗ったことになります。
なぜなら、カスタマーサクセスへの投資は、長期的に持続可能な収益成長への投資であって、成長とは無関係なコストでは決してないからです。

 

※出典元:「The Beginner’s Guide to Customer Success」(Strikedeck, 2017)を著者の許可を得て和訳し一部抜粋しています

 

以上

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