
by 弘子ラザヴィ
新人でも漏れなくカスタマーへ成功を届ける秘訣:プレイブック
カスタマーサクセスの究極の目的は、カスタマーへ「プロダクトを届ける(使ってもらう)」ことでなく、カスタマーへ「成功を届ける」ことです。「成功」はカスタマーによって異なりますし、プロダクトだけで実現できない要素もあります。つまり「成功を届ける」ことは使ってもらうことよりも難易度が高いです。
これを、新人のカスタマーサクセスマネジャーでも確実に実行できるようにする秘訣は何だと思いますか? ー 以下3つのプロセスを作ることです!
(1) カスタマーの成功を測定する
(2) 測定結果を踏まえ、基準値に基づき成否を判断する
(3) 成否に応じて取るべき作戦(対策)をあらかじめ決めておき、それを忠実に行動する
(2)のポイントは、「これを下回るとマズイ」という基準値を会社が定義しておくことで、判断の質を担当者個人の裁量に委ねないことです。
(3)のポイントも、取るべき対策を担当者個人のビジネスセンスや経験値に頼らず組織として定義することです。そしてそれが「プレイブック(Playbook)」です。
「プレイブック」とは、各社の経験や英知に基づく定石が書かれた戦略集で、組織全体で共有し常に判断や行動の拠り所とします。アメリカンフットボールの「プレイブック(フォーメーション別に相手の動きに応じた対抗策が書かれた作戦集。選手はそれを全て頭に叩き込む)」が語源で、ビジネスで用いる時も「(プレイに)勝つための戦略本」というニュアンスがあり、内容もチームプレイの精神に則っています。
似て非なるものが「マニュアル本(「初心者でも行動に移せる手引書)」です。プレイブックはマニュアルと異なり、一定以上のスキルと経験をもつプロフェッショナルがチームプレイで勝つためのものです。
プレイブックを作るコツなどが書かれたクリステンさんの記事を、以下にご紹介します。既にプレイブックを活用している方も、これから作ろうとしている方も、ぜひご一読ください!
注:The Success League社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
カスタマーサクセスの「プレイブック」を作る意義
「プレイブック」とは、営業担当者が見込み客に対して実践すべき営業手法が言語化され纏められた戦略集のことです。もともとはアメリカンフットボールのコーチがチームメンバーに実践してもらいたい様々なプレイをまとめたものです。今では米国でもその語源を知る人は少ないかもしれません。
ここ数年、多くの企業が立ち上げたカスタマーサクセスチームはどんどん大きくなり、独立した部門として存在感をもつ組織になりました。チームが大きくなるにつれ、カスタマーサクセスのプレイブックを作る会社も増えています。
問題は、カスタマーサクセスはカスタマーのライフサイクル全体に渡って関係構築を担当するため、営業のプレイブックよりも内容がはるかに厚く複雑になってしまいがちな点です。あなたは、カスタマーサクセスのプレイブックを作成するのはすごく大変なことだと思っていませんか?もし大変そうだと思うなら、ぜひ以下の内容を読んでください。
1. なぜプレイブックが必要なのか?
プレイブックは、いつ、何を、どうやって実行すべきかについて言語化されたガイドです。カスタマーサクセスチームのメンバーは幅広い業務を担当することが多いため、メンバーそれぞれがどのような業務をしているか言語化するなんてメチャクチャ大変なことだと思うかもしれません。それでもプレイブックを作ることはとても重要である理由を以下に説明します。
役割の明確化
営業の役割はどこで完了し、どこからカスタマーサクセスの役割が始まるのでしょうか?トレーニングは誰が実施しますか?既存カスタマーへのアップセルは誰の責任範囲ですか? プレイブックは、このような役割分担を明確にすることで、大切なボールがとりこぼされたり、複数のメンバーの役割が重複したりする事態を回避します。
トレーニングの簡略化
新しいカスタマーサクセスマネジャーが入社した時、カスタマーサクセスのプロセスについてどのようにトレーニングしますか? トレーニングで教わった内容を新任マネジャーが全部覚えたと期待するのは現実的でしょうか? こうした現実の中で、プレイブックがあれば、新任メンバーは覚えておくべきことをいつでも手元で参照できます。
成果の測定
カスタマーサクセスが直面する様々な事象に対しどう対応すべきか、具体的な行動レベルで定義できていないとしましょう。その場合、カスタマーサクセスマネジャーをコーチングする時、何を拠り所に話せばよいでしょうか? どうしても個人の経験に基づく勘や、関連性が薄い前職の経験に頼りがちです。でもプレイブックがあれば、カスタマーサクセスマネジャーに期待される行動が明快に定義されているので、明確なベンチマークに対するパフォーマンスを測定することが可能です。
2. プレイブックの内容には何を含めるべきか?
プレイブックの内容は、「何をすべきか」と「どうやるか」はそれぞれ章を分けて纏めるとよいです。「何をすべきか」の章では、カスタマーに対して実施すべき対応の概要を紹介します。「どうやるか」の章では、カスタマーサクセスチームの日常業務で実際に行う様ざまな時に複雑なプロセスやツールの手順を示します。
このような章立てにしておくと、カスタマーサクセスの業務に細かい変更があった時でも簡単に変更を加えられます。さらに、同じ業務プロセスやツールを使っている他のチームとも情報の共有がしやすくなります。章立てを具体的に考える時は、以下の点を考慮すると良いでしょう。
カスタマー接点(タッチポイント)
カスタマーへの対応の内容を整理する切り口として、カスタマーライフサイクルにおけるステージごと、またはカスタマージャーニーにおけるカスタマー接点ごとに分類する方法が最も分かりやすいでしょう。
ベストプラクティス
プレイブックには、ぜひベストプラクティスを載せてください。あなたのカスタマーに最適な方法をまだ模索中の場合は、類似している会社のベストプラクティスを調査してみるとよいでしょう。
詳しいガイダンス
プレイブックは新任マネジャーの教育に使うものです。このため「どうやるか」の章では、着任したばかりのメンバーが読んだ時に理解できるよう、十分に詳しく記載されている必要があります。説明が十分かどうかを確かめるには、別の部署の誰かに読んでもらうことがお勧めです。
プレイブックをつくる時は、ほぼ全ての場面をカバーしたいという欲求に駆られますが、特殊な場面やめったに起きない問題に時間を費やすのは得策ではありません。そういうマレな問題は、チームリーダーがメンバーに指導してその時々に解決すれば良いからです。
3. プレイブックはどのように活用すべきか?
新任カスタマーサクセスマネジャーのトレーニング教材
新しいメンバーがチームに参画した時、最初のトレーニングで学ぶ内容の1つがプレイブックです。「何をすべきか」の章は、経験の長いメンバーの説明を受けながら一緒に読み進めると、新任メンバーが質問しやすく理解が早まるためお勧めです。「どうやるか」の章は、私の場合、新任メンバーがその章を必要とする時まで説明をしないことが多いです。新しいプロセスやツールは、使ってみることで最も効率的に学べるからです。
参照ツール
カスタマーサクセスマネジャーが、しばらく経験していない状況を復習したい時にプレイブックは最適な教材です。新しいプレイブックを展開する時は、カスタマーサクセスチームのみんなで「何をすべきか」の章を読み合わせることをお勧めします。在籍期間が長い人ほどカスタマー接点の細かい点について忘れていたり、「プレイ」の一部を見落としていたり、手順を省略したりしてしまいがちだからです。
チームパフォーマンスの測定
チーム全員が新しいプレイブックに慣れてきたら、プレイブックに記かれたプロセスを「実行できているか」という視点で各人のパフォーマンスを評価することをお勧めします。ほぼ全員が定義された行動を「実行できている」状態になり成果が現れてきた段階で、いよいよ行動の結果/成果によってパフォーマンスを評価ましょう。期待する成果が出せていないカスタマーサクセスマネジャーがいれば、プレイブックに立ち戻り、定義された内容を「行動できている」かを確認しましょう。
以上、プレイブックの Why・What・Howについて説明しました。
プレイブックを作るのは早いほどよいです。プレイブックは進化し続けるべき “生きた” ドキュメントです。会社が進化し変化し続けるにつれ、プレイブックも変化させる必要があります。プレイブックの作成には時間はかかりますが、業務が整理されて効率化し、カスタマーサクセスチームを会社とともにスケールさせることができるのです。