G-ガイド #05 カスタマーサクセス予算の立て方

Gainsight社の豊富な資料の中からカスタマーサクセス初心者に向けたガイド “The Essential Guide” の和訳版を「G-ガイド」と名付けてシリーズでお届けします。

 

#01 カスタマーサクセスとは
#02 チャーンとは
#03 カスタマーサクセスの指標とは
#04 カスタマーライフサイクルとは
#05 カスタマーサクセス予算の立て方 ←今回これ

 

注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。


カスタマーサクセスの予算編成には固有の難しさあります。どのような目標が会社全体の利益最大化につながるのか? 資金はどこから捻出すべきか? 具体的に何をどうすべきか? などなど、考えることが沢山あります。

 

成長中の新設カスタマーサクセスチームであろうと既存部門のチームであろうと、エクセルシートを駆使して予算を検討し始めるのに早すぎることはありません。

 

 

第1章 カスタマーサクセス予算の重要性

なぜ営業やマーケティングに一定の予算を割り当てるのでしょうか? 答えはシンプルです。どちらも事業の存続に必要な機能だからです。

 

カスタマーサクセスも全く同じです。

 

ここ数年でカスタマーサクセスに対する認識は大きく変わりました。あいまいなコンセプトだという認識が、事業に必要な主要機能だという認識へと進化しました。カスタマーサクセスの考え方が広まったことで、企業におけるカスタマーを捉える視点が進化し、同時に数多くの成果が生まれました。

 

SaaS Capital社によると、カスタマーサクセスを推進した企業は収益が40%拡大し、成長率は50%高くなり、チャーンやカスタマー満足度にもプラスの効果が生れています。

 

カスタマーサクセスが発展したことで、新たな職種やテクノロジーが生まれ、何より注目すべきは、素晴らしいカスタマー体験をもたらすため企業が一丸となる道が拓かれました。

 

“2014年は、企業、役員、そして投資家が、カスタマーサクセスが戦略資産であり収益ドライバーであることにようやく気付いた年でした”
ー Grainsight社 CEO ニック・メタ氏

 

革新的なアイデアが導入される時は常にそうですが、カスタマーサクセスの運営体制や予算編成を試行錯誤するには時間が必要です。

 

カスタマーサクセスは日々進化し続けているため、予算案の取りまとめは大変な大仕事です。特に予算の確保や拡大は参考になる前例が少ないため、多くの人が頭を悩ませています。先頭に立つ人の前にはいつも壁が立ちはだかるものです。

 

当ガイドでは、予算の資金源の決め方から、経営チームを味方にする目標設定のし方まで、カスタマーサクセスの予算計画に関する内容を網羅します。カスタマーサクセスをぜひ上手く推進して事業を継続的に成長、スケールさせてください。

 

 

第2章 予算の資金源を決める

カスタマーサクセスの予算をたてる時、どの部門予算から資金を捻出するのか、これまでの予算計画にどのような影響があるか、は必ず議論になります。

 

率直に言って、これまでの予算計画は変更する必要があります。しかし、それは他部門にとり痛手となりません。先述のとおり、カスタマーサクセスは収益ドライバーです。カスタマーサクセスへ資金を投入することは、すべての部門予算が将来増額することを意味します。

 

カスタマーサクセスは売上原価(COGS)なのか、それとも営業費用、マーケティング費用なのかは常に議論されます。理由は、カスタマーサクセス業務の中のトレーニングやカスタマーサポートは 売上原価となる仕事、契約更新やアップセル促進は営業やマーケティングの仕事に分類されるからです。あらゆるケースに適用できる単一の答えはなく、様々な方法が実践されます。

 

私たちは様々な企業の財務部門およびカスタマーサクセス部門の責任者に会い、彼らがどのようにカスタマーサクセスの予算づくりをしているか聞きました。その学びは、以下の戦略1?4に大別できます。各社、各事業に固有の戦略でしたが、彼らのアプローチから学べるヒントはあるはずです。

 

戦略1:
カスタマーサクセスは契約更新、アップセル、クロスセルなど、収益獲得の役割を果たすという観点から、販売&マーケティング費用としてカスタマーサクセス予算を計画する戦略です。これはカスタマーサクセスの費用をカバーできるだけの潤沢な営業予算を持つ大企業に適しています。

 

戦略2:
カスタマーサクセスはサポート、オンボーディング、リテンションなど、サービス提供の役割を果たすという観点から、売上原価としてカスタマーサクセス予算を計画する戦略です。区分を明確にするため、アップセルやクロスセルに関して、カスタマーサクセスは機会発掘までを担当しそこから先は営業が担当します。

 

戦略3:
カスタマーサクセスが臨機応変に様々な仕事をするため業務内容の特定が難しい場合の戦略で、カスタマーサクセス予算は売上原価と販売&マーケティング費用で折半します。

 

戦略4:
カスタマーサクセスを業務内容に基づきカッチリ区分けする戦略です。例えば、カスタマーサポートやトレーニングの予算は売上原価、契約更新やアップセル、クロスセルの予算は販売&マーケティング費用として計画します。

 

この他、販売&マーケティング予算をSaaS特有の費用項目に区分する方法があります。この方法によれば、伝統的な費用項目が見直され、カスタマーサクセス予算を最適化するプラットフォームを構築することが可能です。

 

例えば以下のような項目です:

 

・新規カスタマー獲得コスト(CAC: Customer Acquisition Costs)
新規カスタマーの獲得に要する販売&マーケティング費用。ベストプラクティスでは、販売&マーケティング費用の65%がこのカテゴリに投入されます。

 

・既存カスタマー拡大コスト(CEC: Customer Expansion Costs)
既存カスタマーから追加収益を得るのに要する販売&マーケティング費用。ベストプラクティスでは、販売&マーケティング費用の15%がこのカテゴリに投入されます。

 

・既存カスタマー維持コスト(CRC: Customer Retention Costs)
既存カスタマーの契約更新に要する販売&マーケティング費用。ベストプラクティスでは、販売&マーケティング費用の20%がこのカテゴリに投入されます。

 

新しい戦略をとる時の美徳とも悪徳とも言えるのは、望む結果が出るまで手直しが何度も必要なことです。カスタマーサクセス予算の計画時に他部門へどのような影響がでるか総合的に考え、全部門の利益に繋がる方法を一緒につくりあげる姿勢を忘れないでください。

 

カスタマーサクセス実務の成熟度(マチュリティ)を知る

 

立ち上げ初期のカスタマーサクセス部門と、数百を超えるカスタマー向けのカスタマーサクセス部門とでは業務ニーズが全く異なります。あなたの会社のカスタマーサクセスが今どの成熟段階にあるのかを把握しましょう。

 

黎明期:
Gainsight社の成熟度モデルでは、この期間を「リアクティブステージ」と呼びます。この時期はカスタマーサクセス部門の立ち上げ自体が課題です。あらゆるカスタマーを同等に扱い、リスクや機会拡大に対して受動的に対応します。この時期の時間とお金の使い方が事業全体の将来を決めます。

 

成長期:
収集した情報に基づき能動的にカスタマーサクセスを推進している段階です。業務の一貫性が保てるようプロセスを反復して試行錯誤しています。カスタマーのデータは整理されていますが、まだ十分活用するまでに至っていません。成長するにつれ、カスタマーライフサイクルを能動的に管理し、データを用いながら事前に設計したアプローチでリスク回避や機会の拡大に取り組み始めます。

 

成熟期:
カスタマーサクセスに予測能力が備わっている段階です。カスタマーサクセス戦略は既に確立され、更なる効率化とスケールアップが焦点になっています。すべての機能がカスタマーライフサイクルを最適化するために設計・運営され、自動化を進めてスケールアップや可視化を最大限追求しています。

 

 

第3章 カスタマーサクセスの目標を設定する

カスタマーサクセスの経験豊富な社員がいたら、カスタマーサクセスに関わる部門はどこか聞いてみてください。おそらく「すべての部門です」と答えるでしょう。なぜなら、カスタマーサクセスは根本的に全社が一体となって取り組むべきものだからです。

 

これは双方向の関係を意味します。つまり、企業全体がカスタマーサクセス部門をサポートすると同時に、カスタマーサクセス部門も企業全体の成功のために活動を推進するということです。

 

この「全員にとっての成功(Success For All)」理念を予算に反映させるには、企業全体の目標をカスタマーサクセス部門の大目標と位置づけて具体的な目標設定をしていく際の指針にすることが大切です。

 

予算は以下2ステップで策定します:

 

ステップ1 カスタマーサクセス活動の主目的を決める

ステップ2 その主目的が、企業全体の目的にどう貢献するかを明快にする

 

この2ステップを踏むことで、カスタマーサクセスが企業全体の目標に沿うものになります。

 

以下に一般的な目標を紹介します。ステージ別に整理していますが、どの目標も基本的に全ステージで適用可能です。

 

黎明期:
(1) チャーンの抑制
(2) タイム to バリュー(訳者注:プロダクトの導入から実際に価値が自覚されるまでの時間)の改善

 

成長期:
(3) プロセスの標準化
(4) カスタマーサクセス活動のスケール化

 

成熟期:
(5) 収益拡大
(6) カスタマーの信頼感拡充

 

新らしい活動計画と成果のトラッキング

 

“チーフマーケティングオフィサーや営業部門の責任者、カスタマーサクセスの責任者が会議で『人が必要です。人がいれば売上拡大にコミットできます。具体的にはXXをします』と発言するのを聞くのが大好きです。”
― Bessemer Venture Partners社パートナー、バイロン・ディーター氏

 

(1) チャーンの抑制

 

チャーンを減らすには、回避可能なチャーンとそれ以外を分ける必要があります。どのチャーンが回避可能で、どのチャーンは回避不能かの意見は分かれます。最も一般的なのは、カスタマーの買収、倒産、プロダクトの採用を決めた人物の離職というケースが回避不能なチャーンです。

 

ベストプラクティスでは、回避可能なチャーンを、大企業、中小企業、零細企業別にセグメント化することも推奨されます。そうすることで、セグメント別にチャーンの分布を把握できるからです。

 

セグメントごとに回避可能なチャーンを理解したら、改善点を特定して戦略的な対策を提案しましょう。

 

戦略的な対策例:
・カスタマーを充分フォローできていますか?
カスタマーサクセスマネジャー1名当りのカスタマー担当数が多すぎるなら増員を検討しましょう。また、1対多(1 to Many)戦略も、チーム負荷を抑えつつ目配りするカスタマー数を増やす手段として有効です。

 

・警告サインを見逃していませんか?
カスタマーの満足度を把握するためカスタマーへアンケート調査を実施し、フィードバックに基づいて対策を考えましょう。プロダクトの利用状況データやサポート依頼データを収集、集計、管理するシステムを活用すれば、カスタマーのヘルスをよりタイムリーに把握できます。

 

・カスタマーはプロダクトに不満を持っていませんか?
もしそうなら、原因を特定し、サポート資料やカスタマーへの連絡手段を改善しましょう。

 

・カスタマーサクセスマネジャーが良い仕事をするのに必要十分なツールを用意していますか?
カスタマーサクセスチームのメンバーには契約更新の業務マニュアルを配布し、より効率的に仕事ができるようにしましょう。

 

効果を評価する指標:
・ネットリテンションレベニュー(NRR)
・カスタマー数ベースのチャーン
・収益ベースのチャーン
・カスタマーヘルスインデックス(CHI)

 

(2) タイム to バリューの改善

 

カスタマーサクセスの主要目標の1つはプロダクトのROIをカスタマーに実感してもらうことです。投資リターンを実感するまでの時間が短ければ短いほど、必然的にチャーンは減り、カスタマーの満足度も増加します。

 

戦略的な対策例:
・ オンボーディング中のカスタマーは不安・不満を抱えていませんか?
ボイス・オブ・カスタマー戦略を策定し、オンボーディングが終了したカスタマーにアンケート調査を送りましょう。回答を踏まえて業務マニュアルを見直し、不安を感じているカスタマーへは個別に対処しましょう。

 

・定期的にレビュー会議をしていますか?
四半期レビュー会議(Quarterly Business Reviews)は、カスタマーサクセスマネジャーとカスタマーが顔を合わせる貴重な戦略会議です。カスタマーサクセスマネジャーは、カスタマーの事業目標とその達成にプロダクトがどう役立つかを直接カスタマーと討議できます。

 

・カスタマーサクセスマネジャーは最新のプロダクト情報を把握していますか?
カスタマーにとりカスタマーサクセスマネジャーは貴重な情報源です。豊富なプロダクト知識をもつカスタマーサクセスマネジャーからはより良いアドバイスがもらえます。カスタマーサクセスマネジャーがカスタマーへキレある提案をできるよう、適切にトレーニングし、新機能は直ぐ共有しましょう。

 

・カスタマーはプロダクトの機能をよく理解していますか?
プロダクトの機能を強化した場合、同時にカスタマー向け説明資料を用意したり、新機能の通知をキチンとしてください。それを怠ると、カスタマーはプロダクトの最新機能を正しく理解・活用できません。

 

効果を評価する指標:
・ 顧客満足(CSAT)スコア
・ ネットプロモータースコア(NPS)
・ カスタマーヘルスインデックス(CHI)
・ 顧客数ベースおよび収益ベースのチャーンレート

 

(3) プロセスの標準化

 

カスタマーサクセス業務の標準化に着手するのは早いほどスケールが容易になるので望ましいです。カスタマーサクセスの業務オペレーションはほぼすべて標準化が可能なため、その適用範囲は大変幅広く、結果としてさまざまなアプローチが考えられます。

 

戦略的な対策例:
・テクノロジーを最大限に活用していますか?
カスタマーサクセス関連のソフトウェアは、業務プロセスのフレームワーク設計、カスタマーヘルスの追跡、活動の自動化ほか、さまざまな機能を備えるソリューションです。あなたの会社のカスタマーサクセス実務がどのレベルであろうと、こういったソリューションを取り入れることで、カスタマーサクセスのチーム力を大幅にパワーアップできます。

 

・業務プロセスはカスタマーサクセス部門の役割に沿っていますか?
カスタマーサクセス部門の役割、評価指標、活動内容を明確に定義することが大切です。明確に定義されていれば、チームメンバーは期待や責任をより良く理解した上で各業務を遂行することができます。

 

・カスタマーとスムーズにコミュニケーションをとれていますか?
ハイタッチおよびロータッチのコミュニケーションルートを適切に確立できると、 カスタマーサクセスマネジャーがカスタマーとコミュニケーションする時間を大幅に削減できます。必要なデータが可能な限り統合されたメールシステムや、スライド資料、その他のリソースを整えることで、カスタマーサクセスマネジャーが最も効率的に仕事できるようにしましょう。

 

効果を評価する指標:
・ チームパフォーマンス関連指標
・ カスタマー数ベース、および収益ベースのチャーン率

 

(4) カスタマーサクセス活動のスケール化

 

事業が成長してカスタマーの数が増えると、カスタマーサクセス部門もそれに見合う規模に成長する必要があります。カスタマーサクセスマネジャー1人当りのカスタマー数に常にに注意を払ってください。1人があまりに広く浅くカスタマーを担当するとチャーン対策が手薄になり、まるで指の間から水がこぼれるように、カスタマーが離れていきかねません。

 

戦略的な対策例:
・カスタマーサクセスチーム人数の成長ペースがカスタマー数の拡大ペースに負けていませんか?
カスタマーサクセスチームを拡充してカスタマーの急拡大に対応してください。黎明期の場合、複数の役割をこなせる社員を雇用しましょう。事業規模が大きくなると、新人は研修に時間がかかるので、なるべく仕事を素早く理解して即戦力になる人材を探しましょう。

 

“カスタマーサクセスマネジャーがカスタマーと同じスピードでプロダクトを勉強していたら、それは確実に大惨事を招きます”
ー Grainsight社 CEO ニック・メタ氏

 

・オペレーションをサポートする専任チームがいますか?
営業部門やマーケティング部門には専任のオペレーションチームやITアシスタントが配属され、業務の効率化を進めています。カスタマーサクセス部門も全く同様に専任のサポートが必要です。カスタマーサクセス関連のテクノロジーが進化するに伴い、オペレーションはますます重要になっています。オペレーション面のサポートを充実させることで、カスタマーサクセス部門がスケールさせてください。私見ですが、カスタマーサクセスマネジャー5人に1人の割合でオペレーションの専任サポートが必要です。

 

効果を評価する指標:
・ ネットリテンションレベニュー(NRR)
・ カスタマー満足度スコア(CSAT)
・ チームパフォーマンス関連指標

 

(5) 収益拡大

 

チャーンを抑制して管理可能な水準になったら、カスタマーサクセスを収益拡大ドライバーへ変えましょう。チャーン削減で活用したセグメント(大企業、中小企業、零細企業など)を使ってセグメント毎のアップセル率や年間経常収益(ARR)の現状を把握し、達成可能な目標を設定してください。

 

戦略的な対策例:
・既存カスタマーへアップセルやクロスセルのアプローチをする最適なタイミングはいつか分かっていますか?
カスタマー体験の価値向上に繋がるアップセルやクロスセルをより戦略的に進めるには、そのためのプロセスを定義して実行するのが有効です。そのための第一歩は、カスタマージャーニーをより深く理解することです。

 

カスタマーヘルス、プロダクトの利用状況、口コミ度合など、カスタマーに関するデータを駆使し、アップセル、クロスセルを提案する最適なタイミングを知らせるマイルストーンを設定しましょう。カスタマーサクセスのソフトウェアはそれらを自動的に可視化・通知してくれるので、売上増加を支える有用な資産となりえるでしょう。

 

・カスタマーサクセスのチームメンバーはアップセル、クロスセルするのに自信が持てていますか?
カスタマーサクセスのチームメンバーに、アップセルやクロスセルで成功するのに必要なスキルトレーニングや情報武装を提供しましょう。オンライン・オフラインでの営業スキル研修を受けてもらったり、アップセル、クロスセルを実行するためのプロセスワークフローを作成しましょう。こうした投資は、結果として組織力が強化され、1人ひとりが自信を持ってアップセルに取り組めるようになるため、より高いリターンを期待できます。

 

効果を評価する指標:
・ セグメント別ARR
・ チームパフォーマンス関連指標

 

(6) カスタマーの信頼感拡充

 

カスタマーの信頼感は、チャーン抑制から売上拡大に至るまでのあらゆる企業活動に影響を与えるため、毎年充実させていくことが非常に重要です。カスタマーの信頼感を高める方法は世の中にたくさんありますが、まずは何があなたのカスタマーの信頼感を下げ得るかを正確に把握することがとても重要です。

 

戦略的な対策例:
・カスタマーから定期的にフィードバックをもらっていますか?
カスタマージャーニーにおける重要マイルストーン毎にカスタマーからフィードバックをもらう方法を考えてください。ベストプラクティスでは、オンボーディングの完了後や故障または不具合の復旧サポート後、加えて四半期に1度程度、アンケート調査を送付することが推奨されます。

 

・カスタマーのフィードバックに対し部門横断的に対応していますか?
カスタマーのフィードバック内容によってはプロダクト部門や開発部門など他部門の協力が不可欠です。全部門が気持ちよく協力してくれる企業文化を構築できれば、カスタマーのフィードバックを将来に活かせます。

 

・カスタマーとコミュニケーションを適切に完了させていますか?
アンケート調査の送付はカスタマーの信頼感を高める最初の一歩にすぎません。効果はコミュニケーションが適切に完了した時に生まれます。サービスにガッカリしているカスタマーや、口コミ紹介してくれそうなカスタマーは確実にフォローし、彼らの声が正しく受け止められ適切に対応されていると実感してもらうことが非常に大事です。

 

Oracle社の調査によると、カスタマーの89%は酷いカスタマー体験をした後に競合他社へスイッチします。不満を抱えているカスタマーを放置してはいけません。

 

効果を評価する指標:
・ カスタマー満足度スコア(CSAT)
・ ネットプロモータースコア(NPS)
・ カスタマーヘルスインデックス(CHI)

 

 

第4章 役員を味方にする

目標が決まり、戦略も策定できました。次はいよいよ経営チームを味方にする方法です。

 

どんな戦略も究極は同じ所に行きつきます。つまり経営チームが求めることを知りそれが実現できやり方を証明することです。

 

営業マンになったつもりで実現可能な実行計画を提示し、それがROI改善にどう直接結びつくのか役員に説明しましょう。そして、自分が追求しているものは経営チームが求めているものと全く同じだと納得してもらいましょう。経営チームとあなたは同じチームの一員で、同じ目標を共有していると納得してもらえるかどうかはあなたにかかっています。

 

このガイドの冒頭でも触れましたが、カスタマーサクセス部門の活動が会社全体の活動と整合していることが非常に重要です。自分が提案する投資が会社全体の目標達成にどう繋がるかを明快に説明しましょう。

 

“あなたの計画がどう会社全体の目標達成につながるのかを役員に考えさせてはいけません。あなたが道筋を描いて役員に説明するのです”
― ライアン・トーベン氏、 Gainsight社の売上オペレーション部門責任者

 

カスタマーサクセスへの味方をたくさんつくり、議論が優位に進むようにしましょう。新しいソフトウェアの導入等であれば、その投資に責任を負う人物がいることを明らかにして説明責任を果たせば役員たちの気持ちは楽になります。

 

カスタマーサクセス戦略に役員を納得させる上での大きな課題は、部門横断の協業を支える信頼関係を他部門と構築することです。会議で上役に予算案を提案する前に根回しを終わらせ味方を作っておきましょう。プロジェクトの責任者は決まっていて他部門も巻き込めていることが分かれば、役員の懸念は払拭されます。

 

最後に、実現不可能な目標で役員の関心をひくことは絶対しないでください。

 

例えば、新しいツールを導入するとチャーンは35%削減します!と豪語しておきながら、1年間必死に働いた結果、目標を遥かに下回る結果に終わったとします。翌年の役員会議で別の新しいツールを紹介し素晴らしい結果が得られますと言ったら、役員はどう反応するでしょう? ご想像通り、彼らはあなたを信じないでしょう。

 

拍手喝采を受けるような派手な目標を披露するよりも現実的なROIと堅実な実行計画を提案しましょう。そうすれば目標達成できるだけでなく、結果を披露する前に眠れない夜を過ごす必要もなくなります。

 

役員が聞いてくる質問

 

私たちの記事「カスタマーサクセス部門の予算不足とプロセスの株主利益減少に関するCEOガイド」の5つめの項目を参照し、分かりやすいプレゼン資料を準備して予算案の提案に備えていることと思います。

 

残る課題は、逃れられない役員からの質問の嵐にどう対応するかです。経営チームが一番関心を寄せるのはもちろん最終利益ですが、プレゼンテーションに良い印象を持ってもらうことも同様にとても重要なです。

 

以下の質問に自信を持って答えられるよう準備しましょう。そうすれば、あなたの提案は十分な調査を経ていて目標も達成可能だと確信してもらえます。

 

・あなたの目標は会社のビジョンとどう整合するのか?
・あなたのビジョンをバックアップした場合、トレードオフ/代償は何か?
・どの程度本気で目標を達成する覚悟があるか?
・目標達成のカギを握るのは誰か?

 

 

第5章 有料サービスで予算枠を増やす

チャーンが抑制でき、焦点を収益拡大にあてられる段階になると、現行のカスタマーサクセスとは一線を画す有料のプロフェッショナルサービスを検討し始めるかもしれません。それには全く別の戦略が必要で、かつそれほど簡単なことではありませんが、有料サービスはとても良い収入源になるのは確かです。

 

Gainsight社の有料プロフェッショナルサービスはカスタマーへ有意義な結果をもたらす重要な機能であるだけでなく、売上成長をけん引するエンジンの役割も果たします。ソリューションプロバイダーにとり、提供中のソフトウェアを活用した最先端のソリューションや実際の活用事例をカスタマーへ具体的に提示できる理想的なサービスといえます。

 

有料プロフェッショナルサービスの戦略を考える場合、「既存サービスと有料サービスの違いは何か」、「 現在の事業体系の中で有料サービスをどう共存させればよいか 」から検討し始めましょう。

 

既存サービスと有料サービスの違い

 

戦略を実行して成功するには、あなたの専門知識を活かすサービスを展開してください。有料サービスは、既存の一般的なサービスと明確な違いがなければなりません。

 

例えば Gainsight社の有料サービスはクライアントのカスタマーサクセス戦略の立案または実行支援に焦点がおかれます。一般サービスがGainsight社のプロダクトを利用するカスタマーサクセス体験に焦点をおくのに対し、有料サービスはより戦略面に焦点をあて、オンサイトのワークショップや徹底的なインタビューなども行い、徹底的にクライアントの戦略立案・実行を支援します。

 

“事業を継続するためのソリューションと、最先端で業界をリードし続けるためのソリューションはまったく異なります”
― アンジェラ・スコット氏

 

有料サービスを開発するには、あなたのカスタマーが聞いてくる質問のパターンを考えてみるとよいでしょう。

 

Gainsight社の場合、カスタマーの質問は大きく2パターンでした。1つは「いつ始められるのか」、もう1つは「どう実行に移せばよいのか」です。この2つの質問に沿って有料サービスを考えました。

 

現在の事業体系の中で有料サービスをどう共存させればよいか

 

有料サービスと無料サービスをきっちり分けるため、プロフェッショナルサービスとカスタマーサクセスの2チームを編成しましょう。一部のスキルは共有しても、最終的にはまったく異なる組織に成長させるべきで、評価方法も完全に異なります。

 

2チームを組織化したら、それぞれカスタマーのライフサイクルの中でどのような役割を果たすべきか考え、その責務にあわせた指標を決めます。この点についてはGainsight社EMEA担当ジェネラルマネジャー、ダン・ステインメン氏がカスタマーサクセスとサービスの協働に関する素晴らしい記事を書いているので参考にしてください。

 

最も重要なのは、あなたのチームが有料サービスを提案・実行するのに必要十分なリソースをもっていること、そしてチームメンバーの教育に時間を割くことです。カスタマーがお金を払ってくれるサービスを提供するのに必要なスキルをメンバー全員が身につけることは必要不可欠です。

 

(原文)

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