
カスタマーサクセスの世界最大イベント「Pulse 2018」に登壇させて頂いた時、私は、日本では「パートナーサクセス(注)」が非常に重要だとお話しました。
注)私の定義: Partner Success is to Enable Your Partners with tools and knowledge, so that they can Make Your Customers Successful.
それは、同セッション参加者の大半が欧米企業の方で、Box Japan のパートナーサクセスのように、欧米企業が日本で事業展開する際にパートナーサクセスは大変有効だから、が分かりやすい主な理由でした。
でも本音は、この「パートナーサクセス」は実は日本人(強力な勝者がすべてを勝ち取る、よりも、皆で一緒に成功を分かち合うエコシステムを好む)にとても馴染む概念であり、日本企業こそパートナーサクセスを上手く推進することでとても大きな成果を手にできると信じているから、が理由でした。
米国でも「パートナーサクセス」はまだまだ新しい領域で、逆にその分、期待と関心がとても高い領域でもあります。「ベンダー → カスタマー」という2社間ではなく、「ベンダー → パートナー → カスタマー」という3社間関係になる分、より高度なスキルが必要ですが、上手く推進できれば、カスタマー含むエコシステム全体として非常に大きなインパクトをもたらすからです。
今後も引き続き注視していきたい重要テーマです。
なお、日本でパートナーサクセスを推進しているマクニカネットワークス社よりゲストスピーカーをお招きし、パートナーサクセスについて討議した動画「Success4 Webinar Pulseシェアリング 第3回:パートナーに向けたカスタマーサクセス『パートナーサクセス』」もぜひ併せてご覧ください!
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
パートナーと連携してカスタマーサクセスを推進する方法
この記事は、Gainsight社のチーフ・カスタマー・オフィサー(CCO) アリソン・ピケンズ(Allison Pickens)氏と、 Cisco社のクラウドセキュリティ部門のカスタマーサクセスリーダー、クリス・ドエル(Chris Doell)氏の共著です。記事執筆にあたり、Cisco社のオファー・マネタイゼーション・オフィスのディレクター、ケリー・キルウィン(Kelli Kirwin)氏に、チャネルとのカスタマーサクセスに関する彼女のパイオニア的な実績についてお話を伺いました。彼女の貢献に心から感謝します。
もしあなたがカスタマーサクセスをスケールさせたいなら、あなたのカスタマー、特にロングテールなカスタマーに対し、自動配信メールの域を超える気の利いたことをする必要があります。
その時、パートナーエコシステムに基づく協働が非常に重要な役割を果たします。
パートナーエコシステムを構築するには、パートナーとどういった協業関係を構築できるかから検討を始める必要があります。具体的にはカスタマーが目指す成果、カスタマージャーニーにおけるタッチポイント、そしてカスタマー、ベンダー、パートナーそれぞれのインセンティブについてなどです。
協業の組み手がうまく成立すれば、関係者全員が成果を手にできます。
・カスタマーは、価値を実感するまでの所要時間(Time to Value)が大幅に短縮するので大歓迎です。
・ベンダーは、アダプション強化に必要な費用を抑制でき収益性が改善するので嬉しいです。
・パートナーは、粗利やリテンション率の改善に加え、アップセル・クロスセルの収益機会を得て競争力を向上させられます。
要は、ベンダー・パートナー関係のあり方に大きなパラダイムシフトが起きます。即ち、ベンダーとパートナーが一体となり、カスタマーにサクセスをもたらすという目的を共有する共同体(エコシステム)をリードする役割を担うようになるのです。
ベンダーとパートナーが一体となり新境地を開拓していく様子を私たちは数多く目にしています。
例えば:
・カスタマーに成果をもたらすことへの責任を共有する
・カスタマージャーニー全体を360度可視化するためのツールを共有し、常に同じ眺望をもつ
・カスタマーヘルスを測る信頼できる指標(NPS、アダプションや口コミ状況を把握する指標など)を共有する
・ありたいカスタマージャーニーとそれを実現するための手順書を一緒に開発し共に良いものにしていく
繰り返します。カスタマーサクセスの興隆に伴いベンダー・パートナー関係の枠組みが大きく変化します。
従来、大多数の企業は取引活動そのものに重点を置き、利益の維持、売上の維持、サービス採用率を、大抵この順番で測定・管理しました。
一方、カスタマーを成功へ導くジャーニーの成否が自社の成功を左右する新たなパラダイムにおいて、ベンダーにとりパートナー企業は、社内の利害関係者(サポート、営業、マーケティング、プロダクト、CSMなど)と同等かそれ以上に重要な存在です。ベンダーはパートナーに対し、カスタマーの成果実現に向けたより積極的な貢献を期待するようになります。
以上が私たちの描く数年後の世界観です。
もちろん、これは大変大きな変化であり、一夜にして実現することではありません。メリットの確証を得られなければ、カスタマーサクセス指向の人材へ積極的に投資できないパートナーも大勢います。
つまる所、新たなパラダイムの価値を証明するのはベンダーの役目です。まず証明し、その後でより多くのパートナーへ広めていくのです。
最初は進歩的なパートナー2社と取り組みを始めましょう。一度証明できれば(皆さんご自分の社内で経験ずみのように!)、その成功モデルをより広範なパートナーに向け、繰り返し、繰り返し横展開していくことが可能です。
以降、私たちがお勧めする、カスタマーサクセスを加速させるパートナーとの協働法をご紹介します。
1. あなたのパートナーを分析する
2. パートナーがROIを証明するのを手助けする
3. カスタマーに関する意味ある情報を共有しあう
4. パートナーへ武器を授ける
5. 誰がどのカスタマーに何をするのか明確にする
6. パートナー関係の有効性を測定する
1. あなたのパートナーを分析する
パートナーへカスタマーサクセスプログラムを展開していく際、ベンダーは、パートナーエコシステムに所属する多くのパートナー企業に対し優先順位をつけて時間を効率的に配分する必要があります。
最初は2?4社から取り組み始めます。確実に成功できる2〜4社を注意深く選択しましょう。
以下の視点に基づきパートナー候補に優先順位をつけます:
1. 自社(ベンダー)のサービスは、彼ら(パートナー)の事業モデルの中核に位置づくものか?
2. 「ライフサイクルを管理する」または「アダプションを推進する」ための実務プロセスがあるか?
3. クロスセルやアップセルなどを積極的に展開することで、カスタマーサクセスの投資対効果を大きく上げることを期待できそうか?
4. カスタマーサクセス専任の担当者、ないしトレーニング専任の担当者が数人いるか?
5. 彼ら(パートナー)が大企業の場合、
– カスタマーサクセスの責任を担う統括役員がいるか?
– 各カスタマーサクセスマネジャーが所属する組織の上長はその統括役員か?それとも営業/ サポート/ オペレーション担当役員が統括する組織所属か?
最初の2〜4社が特定したら彼らとパイロットに着手し、どうすると上手くいき・いかないか確認しましょう。そうしてからリストの行を増やしていきます。
2. パートナーがROIを証明するのを手助けする
最初の2?4社のパートナーとパイロットを推進したら、「カスタマーサクセスプログラムは積極的に広める価値がある」ことをパートナーが社内にむけて証明する手伝けをしましょう。残念ながら基本的にパートナーはROIの証明に必要な努力を自発的にしてくれません。ROIを証明するのはベンダーであるあなたの役割だと心得ましょう。
ROIを高める収益源は4つあります:
1. プロダクト収益の増加
例えば、既存アカウントへ速やかにエクスパンションを行ったり、離脱するカスタマー数を抑制することで収益を引き上げられます。特に定期収益モデルでは、カスタマーサクセス実務の成熟度が上がるほど、グロスリテンション率は10?20%ポイント、ネットリテンション率は20?30%ポイントも向上します。
2. サービス収益の増加
プロダクトのリセールからパートナーが得るマージンは通常スズメの涙レベルに低いです。しかし、サービス事業の場合は30~40%のマージンが得られます。カスタマーサクセスをしっかり展開できれば、パートナーはカスタマーと深く関わることができ、どの領域のサービスがカスタマーに価値を提供し得るか等をより深く理解できます。
3. サービスとしてのカスタマーサクセスからの追加収益
有料のカスタマーサクセスプログラムを展開するベンダーもいます。同様のことをするパートナーもいます。
4. 差別優位性を際立たせることでの新規カスタマー収益の増加
しっかりしたカスタマーサクセスプログラムを展開できるパートナーは他社とハッキリ差別化できます。ベンダーは「ゴールドステータス」など特別な要件基準を設定し、彼らのカスタマーサクセスプログラムがそれを満たすことを示すことで、パートナーが差別化するのを援護射撃できます。
カスタマーサクセスに投資することのROIモデルを明確に組み立て、実際にカスタマーサクセスプログラムを展開することで実績に基づくROIを証明できるパートナーを数社見つけることが何より大事です。パートナー企業群の中からそういった「アーリーアダプター」的なパートナー企業を数社見つけ出し、その他企業の方たちにもその価値を示すことができるようなお手本事例をつくってください。
3. カスタマーに関する意味ある情報を共有しあう
大半のベンダーは現在、”デジタル化” を進めてます。使用量データ、NPSデータ、問合せ案件データ、コミュニティポータルのデータなどなど、さまざまなデータに基づきカスタマーを360度あらゆる角度から見渡せる仕組みが整っています。このような仕組みは、パートナーがどのカスタマーに、いつ、どんなフォローアップをすべきか把握するのにも有用かつ必要です。
ぜひ、あなたのデータをパートナーと共有してください。今こそ、そうすべきタイミングです。
最初は基本的なデータから始めましょう。例えば、更新日が30日・60日・90日後に近づいているカスタマーのリストをパートナーにメール送信するなどです。そして徐々により豊富なデータへと共有の幅を広げていきましょう。
Gainsight社のツールを利用している方がたは、さまざまな種類のデータをツール経由でシステマティックに共有しています。
そして、データ・情報の共有は双方向であるべきです。ベンダーにとり、カスタマーに関する意味ある情報をパートナーから共有してもらえるのは嬉しいことです、そのための仕組みをつくりましょう。更に、カスタマーサクセス手順書の有効性や、プロダクトそのものの改善余地などについて、 パートナーの意見やフィードバックをぜひ入手してください。
4. パートナーへ武器を授ける
ここまで、アーリーアダプター的なパートナーを見つけ出し、彼らのROIモデル構築・実証を手助けし、カスタマーに関する意味あるデータを共有しあいましょう、という話をしました。
4点目は、それに加え、以下3つの武器をパートナーへ授けましょうという話です:
1. カスタマーサクセス手順に関するトレーニング
ベンダーのあなたは、パートナーに対し、彼らが獲得した新規カスタマーに何をすることを勧めますか? 新規カスタマーがあなたのサービスを上手く使いこなせなかった場合どんな対策をしてほしいですか? 契約更新が近づいているカスタマーに何をしてほしいですか? ベンダーのあなたが最も重視するKPIは何ですか? 目標を達成するためにパートナーに何をしてほしいですか?
これら必要な情報や知識、ノウハウをぜひパートナーへ伝授しましょう。
2. カスタマーサクセスのレベル認定
先述の通り、パートナーに対し、ライフサイクルマネジメント、アダプションプログラム、チェンジマネジメントなど、彼らのカスタマーサクセス実務レベルが特定ステータ(例: ゴールドステータス)の基準に達するよう促しましょう。
3. “パートナーサクセス” マネジャー
ベンダーは全パートナーに対しサクセスマネジャーの担当をつける余裕はありません。実際は、パートナーをセグメント化し優先順位に応じて人材を配置します。
ベンダーのアカウントマネジャーの役割は、”パートナーサクセス” マネジャー へと進化しつつあります。これは、契約処理を担当するアカウントマネジメントチームがカスタマーサクセスチームへ進化しつつある傾向と似ています。
パートナーの中には、彼らのカスタマーサクセス実務レベルをひき上げるために、ベンダーが更に踏み込んで支援しなければならないケースがあります。特に、パートナーの有料アダプションサービスが、ベンダーの無料カスタマーサクセスほど質が安定せず、結果としてカスタマーがそのパートナーから離脱しチャネルスイッチをする可能性がある場合です。
ベンダーとしてパートナーへ武器を提供する際には、パートナーがそれを “有難い支援” と受け取るよう最大の配慮をする必要があります。つまり、ベンダーがパートナーへ強制的に命令・介入するものではなく、あくまでベンダー・パートナー関係をより良いものにするための提案・支援である、と認識してもらうことが大切です。
5. 誰がどのカスタマーに何をするのか明確にする
パートナーはあなたの事業のすそ野を、SMB(訳者注:中小規模の企業)カスタマーまで広げてくれます。
カスタマーサクセスプログラムにおいて、ベンダーは通常、大企業カスタマー(下図におけるピラミッドの最上層)からカスタマーサクセスマネジャーの担当を割り当てます。中堅クラスのカスタマーへ担当を割り当てることも多いです。しかし、ピラミッド最下層のSMBセグメントに担当を割り当てる予算はないかもしれません。
一方、パートナーは通常、ピラミッドのあらゆる階層に位置するカスタマーとやり取りをします。
ベンダーとパートナーの限りあるリソースをどのクラスのカスタマーへどう割り当てようとも、最も重要なのは、誰が何をしているのかを常に把握することです。各セグメントに対し、あなたのチームメンバーには何をして欲しいですか? パートナーには何をして欲しいですか? そういったことを行動レベルで具体化することが非常に重要です!
その際、気を付けなければいけないのは、あなたのチームメンバーであろうとパートナーであろうと、行動する1人ひとりが、ライフサイクル全体を通じいかなる時もあなたのブランド価値を守ることです。 あなたのブランドに対し良い印象を強く残すため、パートナーに対し、ブランドに相応しいメッセージを一貫して発するよう徹底してください。
6. パートナー関係の有効性を測定する
パートナーにはパートナーとしての責任を果たしてもらいましょう。パートナーが、ベンダー推奨手順にきちんと従っているか、目で見て確認しましょう。パートナーが、カスタマーにきちんと価値を提供しているかも確認しましょう。
実は、パートナーへの報酬をカスタマーへもたらした成果ベースにしたいと考えているベンダーはとても多いです。
中には、新規契約でなく、更新された契約の実績ベースでパートナーへの報酬を決めるベンダーもいます。さらに進んで、ライセンス使用料、アクティブユーザー数、カスタマーヘルススコアといった、契約更新やエクスパンションに繋がる先行指標の実績ベースで報酬を決めるベンダーさえいます。
要は、論より証拠なのです。どの指標を使おうとも、カスタマーサクセスへの投資効果をきちんと測定することが何より大事であり、そうすべきです。
特に進化系の報酬モデルを採用する場合、先述の3点目(カスタマーに関する意味あるデータの共有)がより重要になります。つまり、ベンダーとパートナーは、報酬を決める元となる「真実を語るデータ」を共通システムで共有しあう必要があります。さらに、指標を前もって相互に合意し、定期的に一緒に見直し、「誰が言った・言わない」という恐ろしい(そして非生産的な)状況を避けるために客観的に測定する必要があります。
こうしたことを実行するには、それなりの労力と共有ツールへの投資が必要ですが、ベンダーとパートナーが連携してカスタマーへ期待成果をもたらすためはどれも必要不可欠なことです。
以上、カスタマーサクセスを加速させるパートナーとの協働法・6ステップについて紹介しました。
最後に、将来的なベンダー・パートナー関係の発展方向性を補足するなら、恐らく、カスタマーヘルス指標の目標値に基づき変動する”ダイナミックマージン%” ベースで報酬を決める可能性が大いに検討されていきそうです。ベンダーとパートナーの関係が、カスタマーサクセスへ共に投資することを一旦合意したほど近しい関係ならば、リスクとリターンを共有することは経済合理性にかなう方向といえるでしょう。