Googleで学んだカスタマーサクセス人材採用の秘訣

カスタマーサクセスチームを統括するリーダーなら必ず、どういう人材を採用したいかの「求める人材像」を明確にお持ちです。

 

私は米国でも日本でも、リーダーの方々それぞれの「求める人材像」を聞くのが楽しみです。なぜなら、その人なりの経験や哲学がそこからくっきり現れるからです。

 

中でも最もユニークだなあと感嘆したのが、マヤ・カプールさんのアドバイスです。それは10年以上前のGoogleで彼女自身がカスタマーサクセスチームをリードされた時の経験に基づくものです。

 

感嘆した理由を簡潔に言えば、彼女が断言する「カスタマーアドボカシー能力のある人材を採用すべし」という視点がとても斬新かつ目うろこな上で、それを見分けるポイントまで具体的な特質(を問う質問)として定義されている点です。

 

彼女の「人材像」に同意されるかどうかは別にして、カスタマーサクセスチームを率いるリーダーであれば必ず一読・一考の価値アリと思います!

 

注:著者Maya Capur氏の許可を頂き原文の和訳を紹介します


 

カスタマーサクセスに成功したければテクノロジーが苦手な人を採用すべし

 

SaaS事業で成功するにはカスタマーサクセスチームが良い仕事をすることがとても重要なのは既に誰もが承知です。

 

現在、ほぼすべてのSaaS企業は、カスタマーに2?3年契約し続けてもらわないと、新規契約の獲得やサービス導入に投資したコストを回収し利益がでないモデルになっています(注)

 

契約更新は、今やSaaS事業に成功する上で “ナイス2ハブ(あるとよいもの)” でなく、”マストハブ(必要不可欠なもの)” です。

 

新規獲得の数値目標を抱える営業チーム単独ではこれを推進できません(また、そうすべきでもありません)。カスタマーサクセスチームが、営業とは独立した組織としてリテンションとエクスパンションの責任を担う必要があります。営業が契約をクローズし、カスタマーサクセスが契約を大きくする、という構図です。

 

私はかつてGoogleで、カスタマーサクセスチームを構築・拡大する経験をしました。

 

当初はサポート中心だった15名のチームから、2005年というGoogleの超成長期にあった「Product Search(以前はFroogle)」と「Googleニュース」のカスタマーサクセスを推進するという割と幅広い役割を担う50名のチームへと拡大させました。

 

結果、リテンション率とリニューアル率は90%改善し、その費用を40%削減することに成功しました。 成功の鍵は正しいプロフィールをもつ人材を採用することでした。

 

では一体、よい仕事をするカスタマーサクセスチームを編成するにはどうすればいいでしょう?

 

カスタマーサクセスマネジャーの日々の業務は非常に細かい仕事が中心です。最初はオンボーディングを成功させることに集中し、次にサポートの質を上げ、カスタマーとの関係を深める工夫を重ねます。要は、プロジェクト管理とサポート案件管理に追われる日々です。

 

一方、優秀なカスタマーサクセスマネジャーの条件とは一体何でしょう? それは何といっても、カスタマーアドボカシー能力(訳者注:原文は”Customer Advocacy”。カスタマーのことを心から愛し彼らの気持ちや意見を代弁できる能力)です!

 

残念ながら、その点はあまり深く理解されていません。カスタマーアドボカシー能力は優秀なカスタマーサクセスマネジャーがもつ重要な特徴の1つですが、一方でそれが何を意味するのかはあまり明確になっていません。

 

実際、カスタマーアドボカシーは昔からプロダクト、マーケティング、営業どの部門においても常に成功の鍵でしたよね? つまり、「カスタマーアドボカシー」という言葉は、より詳細レベルで理解しない限り、それがもつ重要な意味の多くが理解されずに終わるのです。

 

結果として「カスタマーアドボケイト」は、採用したい人材を「人と話すのが好きな人」と表現するのに似たもの、つまり単なる決まり文句になってしまっています。

 

こんな採用面接を想像できますか? 「いやいや、私はアドボカシー能力(または人好きで)は全くないですが、御社サービスの破壊的な価値にはとても共感してるんです! さあいつ仕事を始めましょうか?」

 

つまり、カスタマーアドボカシーという言葉がどういう意味でどう解釈されるかを理解することは、その用語を価値ある意味をもつ言葉に戻すために必要不可欠です。

 

私がリードしたGoogleチームでは、「カスタマーアドボカシー能力」を非常に具体的な特質として定義したので以下にご紹介します。

 

1.「この人はテクノロジーが苦手なタイプ(technology laggard)かしら?」

 

私の経験上、上述の質問への答えは、「この人はユーザーや彼らの抱える問題に自然な共感を覚えるかしら?」という、とても重要な質問への答えと同じです。

 

私たちのいるテクノロジーバブルの世界では、ユーザーのテクノロジーリテラシーレベルが非現実的に低いと想定することはまずありません。なぜなら、テクノロジーバブルの世界にいる人は、たとえノン-テック経歴の人でさえ、平均ユーザーよりはるかに高いテクノロジーリテラシーを持ち、それこそが、カスタマーアドボカシー能力の高いチームを築く第一歩であると認識しているからです。

 

でも、もしそんな認識があるなら、私たちはそれを「テックリテラシーに関する無意識の偏見」と呼ばなければなりません。

 

では偏見をどう正したらいいのでしょう?

? それは、テクノロジーが苦手な人(technology laggard)を雇うことです!

 

ではテクノロジーが苦手な人は誰でしょう?

? それは本質的には、テクノロジーそのものに関心のない人です。つまり、テクノロジーがもつ “笛吹き”魔力に簡単には流されない人です。

 

テクノロジーが苦手な人は、アプリやウェブサイトをチェックして「(このテクノロジー)スゲェいい!」とか叫ぶことはありません。

 

彼らのテクノロジーに対する自然な反応は、「これは何の役に立つのだろう?」です。そしてじっくり見比べて、自分の役に立つものを、誇らしげに手に入れます。

 

恐らく、この「じっくり見比べて」は、カスタマーサクセス人材を採用する際に最も重要な点です。なぜなら「大抵のユーザーは基本的にテクノロジーには圧倒されるものだ」という事実を理解することは、テクノロジーバブルの世界に生きる私たちのような人間にとって忘れ去られていることだからです。

 

このような考え方の原点は、人間性(ヒューマンファクター)の基礎研究に遡ります。

 

乱暴に言えば、誰も私たちが創りだしたテクノロジーを使うことに時間をかけたくないのです。人は本当は自分が最も楽しめることをしたいのです。スクリーンから離れ、愛する人と一緒に過ごしたり、自分の好きなコトをしたいのです。

 

ですので、なるべく、とにかく簡潔、簡単、かつ直感的にしましょう。

 

カスタマーとやり取りしたりフィードバックを得る最前線にいるチームが、そういった視点で自社プロダクトを客観視できることは非常に貴重なことです。それは、プロダクトマネジャー、デザイナー、エンジニアが、他のプロダクトマネジャー、デザイナー、エンジニアにとって魅力的で「使いやすい」プロダクトを創る世界に対し、重要かつ大いに必要とされる一定のバランスをもたらします。

 

テクノロジーが苦手な人は本質的なレベルでユーザーの苦痛を感じとります。彼らは意識して “カスタマー /ユーザー視点をもつ” 必要がありません。なぜなら、それは彼ら自身の視点だからです。

 

大規模チームならなおさら、彼らの声がもつ潜在力を常に意識すべきでしょう。チームの中に、 つまりカスタマーとの最前線に、恒久的なユーザーテストグループを持つのと同じくらい重要です。

 

テクノロジーが苦手な人を意識して採用することは、カスタマーサクセスの人々が時にプロダクトの人々に対し感じる「自然な」威圧力を和らげることにも繋がる素晴らしい方針です。

 

更にそれは、ユーザーがどうプロダクトを理解し・どう反応したかという1つ1つの経緯が、プロダクトの使いやすさとその価値を高めるための重要なインプットになる、と誰もが信じる企業文化の醸成に繋がります。

 

SaaSアナリティクスの世界でカスタマーサクセスチームを構築しリードしてきた私の経験上、これはカスタマーサクセスチームの構成を考える上で非常に重要な点です。

 

2.「この人は “雑草の一部になる” のを楽しめる人かしら?」

 

言い換えれば「データ品質に関わる深刻で厄介な問題に本腰で飛び込んで解決するのを楽しめる人かしら?」、または「ユーザーがどこから混乱し始めたのかを正確に理解し、1つ1つステップを追ってユーザーに説明するのを楽しめる人かしら?」ということです。

 

視座を上げ樹木の森を見逃さないようにするスキルを指導することは、カスタマーサクセスのプロフェッショナル人材開発において強いニーズのあるテーマです。

 

しかし実際は、日常業務から重要な意味合いや洞察を引き出すスキルを指導する方が、細部を重視してキッチリ仕事するスキル(ディテール指向)を指導するよりもはるかに簡単なのです。

 

3.「この人は “チェックリストの人” かしら?」

 

オンボーディングの最中だろうと終了後だろうと、トラブル対応や火消し対応には、刻々と変わる多数の個別タスクのリストを作成し、1つ1つ潰しこんで状況を乗り越えられる人材が必要不可欠です。

 

チームの中には必ず、解決に1ヵ月とか時には四半期もの時間を要する、大規模でグチャグチャな問題に取り組んでいるメンバーがいます。そういった問題に直面した時、焦点が絞られた無理のない予定リストを即座にかつナチュラルにつくって走り出せる候補者を探しだすことは、良い仕事をするチームを編成する上で非常に重要な鍵を握ります。

 

4.「この人は “先生/人を喜ばすのが好き” なタイプかしら?」

カスタマーサクセスマネジャーは、あらゆる思考・行動の中心にユーザーのニーズと幸福を据え、それを常に尊重する役割を担う人です。

 

成功するカスタマーサクセスマネジャーは、「先生から褒められるのが好き」な学生のように、「他人からの肯定」にやり甲斐を感じる役割を自然にこなします。

 

彼らは、ユーザーの期待を超え幸せを感じてもらえることで、プロとしての満足感を得ます。カスタマーが喜ぶ瞬間が何より嬉しく、カスタマーの成功事例を積み重ねて共有できることを本質的に楽しむ人たちなのです。

 

 

以上がGoogleチームによる「カスタマーアドボカシー能力」の定義です。

 

急成長するSaaS事業の勢いを維持するには、早くから継続的にカスタマーサクセスへ投資することが必要不可欠です。そして適切な人材プロファイルを持つメンバーを選ぶことこそが、最高のカスタマーサクセスチームを編成する上での鍵を握るのです。

 

 

(注)株式公開している平均的なSaaS企業では、2年生存率で月次チャーン 3%、その時の売上効率は0.8、即ち5四半期で累積営業費用を回収します。

 

(原文)

 

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