
Gainsight社の豊富な資料の中からカスタマーサクセス初心者に向けたガイド “The Essential Guide” の和訳版を「G-ガイド」と名付けてシリーズでお届けします。
#01 カスタマーサクセスとは
#02 チャーンとは
#03 カスタマーサクセスの指標とは
#04 カスタマーライフサイクルとは
#05 カスタマーサクセス予算の立て方
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(前編)
#06 ハイタッチなカスタマーサクセス(後編)
#07 四半期ビジネスレビュー(QBR)とは ←今回これ
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
第1章 四半期ビジネスレビュー(QBR; Quarterly Business Review)とは?
私たちは「データは魔法の杖だ!」と考えがちです。 — つまり事業上のあらゆる課題が解決する特効薬だと妄想しがちです。しかし実際は、データを取り出す技術も、データを分析する技術も、そしてデータそのものも、残念ながら魔法の杖ではありません。
ではデータは一体なんでしょう? データは、あなたがどのツールをいつ使うべきか判断する際の判断材料です。データがあることで、あなたはカスタマーとより適切に会話でき、カスタマーへもたらされる成果を予測できるのです。
言い換えれば、ビックデータさえあれば人と人とのやり取りが、1対1だろうと1対多であろうと、すべて不要になると考えるのはバカげています。
実はF2Fの戦略会議はカスタマーサクセスマネージャーにとり最も効果的な手段です。それゆえ私たちは四半期ビジネスレビュー(QBR;Quarterly Business Review)を実施するのです。
エグゼクティブ・ビジネス・レビュー(EBR)とも呼ばれる 四半期ビジネスレビュー(QBR)は、基本的に四半期に1度行うカスタマーとの会議です。
SolarWinds MSP社ではこれを「四半期ごとにカスタマーの事業の現状、及びそれを支援する方法についてカスタマーと話し合う会議」と定義しています。とてもシンプルですね。
理屈は全く持ってその通りシンプルです。しかし、100%活用できずむしろ失敗に終わるのも簡単です。
QBRは本質的に、戦術的でなく、戦略的でなければなりません。QBRは、カスタマーサポートに関わる質問やトレーニングの追加計画などについて議論する時間や場ではありません。QBRは、カスタマーの事業の現状と将来の計画についてより深く理解し、それを踏まえ、より高い価値を提供する方法を戦略的に議論すぶ時間であり場です。
ベンダーとしては、単なる「出入り業者」の立場から脱却し「事業アドバイザー」の立場になるチャンスです。うまくいけばカスタマーとより固い信頼関係を築くことができ、彼らとの関係強化に繋がります。
第2章 四半期ビジネスレビュー(QBR)のFAQ
Q:すべてのカスタマーとQBRを実施するのですか?
A:もしもあなたの時間、スタッフ、リソースが無制限なら、すべてのカスタマーとQBRを実施できます。しかし現実は、すべてのカスタマーとQRBを実施する余裕はないでしょう。簡単な算数です。カスタマーが100社で、1年に4回会議、1回の会議が1時間として、1年に400時間、イコール10週間分の仕事です。つまりあなたの時間の2割に相当します。
基本的にQBRはハイタッチの活動であり、ハイタッチすべきカスタマー向けです。カスタマーのセグメンテーションが重要です。QBRに使う時間は非常に重要なトップカスタマー向けにを取っておきましょう。
Q:QBRはカスタマーのオフィスでF2Fに実施しますか?
A:非現実的な世界では、カスタマーのトップエグゼクティブやチャンピオン(訳者注:プロダクトを最も高頻度に使い倒しているユーザー)とQBRで物理的に握手しているでしょう。もちろんF2F のQBRを実施することは可能ですが、恐らく戦略クライアント数社に対し年に1度な可能性が高いです。
通常、QBRはビデオ会議で実施します。視覚的な情報を共有する必要があるため、ただの電話では不十分です。もちろんF2Fで行うことも非常に重要です!
Q:QBRはどのくらいの頻度で行いますか?
A:答えは簡単です!QBRとは四半期ごとのビジネスレビューですから、四半期に一度です。しかし実際はそこまで頻繁に実施されないことも多いです。そのため「EBR(Executive Business Review)」という呼称の方が好まれます。
量より質、は至上命題ですが、四半期というのは決して恣意的でなく客観的なベンチマークに基づいています。即ち、ほとんどの企業が四半期に1度実施しています。
もしあなたのカスタマーが変則的な時間軸でベンチマークする場合はそれに応じる必要があります。または他の基準でスケジュールを立てることもできます。
ポイントは、両当事者の年次目標に対し意味ある周期で意図的かつ定期的に討議することです。
Q:最初のQBRをいつスケジュールすべきですか?
A:システム実装中のQBRは無意味ですので、稼動するまで待ちましょう。実装後90日以上経過してしまうと、「最初の価値を感じるまでの時間(Time to Value)」問題が生じます!なので、実装後はあまり日をおかずQBRを実施しましょう。理想的には、実装が終わって稼動し始めた直後に1度、それ以降は90日ごとにスケジュールするのがベストプラクティスです。
Q:QBRに参加するのは誰ですか?
A:まず、カスタマーサクセスマネジャーはQBRを推進する責任者です。そしてあなたの会社とカスタマーの両社の幹部が出席するQBRが最も効果的です。両社が互いの事業計画や目標を共有し相互理解が進みます。
あなたの会社が成長するにつれ、すべてのカスタマーとQBRを行うのは非現実的になることを覚えておきましょう。トップアカウント(継続的なサクセスのために最も重要なカスタマー)とのQBRを優先しましょう。それにはカスタマーをセグメンテーションをすることが必要です。
リンカーン・マーフィー曰く「QBRはトップセグメントのカスタマーのためのものです。トップセグメントのカスタマーとは、あなたの会社やあなたが特別な配慮をする必要がある、そしてそれに値するカスタマーです」。
第3章 四半期ビジネスレビュー(QBR)が必要な理由
事業成長のアーリーステージでは一般的に、カスタマーとかなり頻繁かつ定期的に交流できます。よりハンズオンなアプローチに多くの時間をかけられますし、そのメリットもあります。大手・老舗な企業に比べ、アーリーステージの企業はそもそもカスタマーの数がまだ少ないので、カスタマー各社と近しい関係を維持することは割と簡単です。
しかし事業が成長し会社が大きくなるにつれ、そういう近しい関係を維持するのはだんだん難しくなります。すべての成長段階で常に成功し続けるには、カスタマーとの密接な関係を維持することが不可欠である一方、そのような1対1の接触を効率的にスケールさせるのは不可能でもあります。
カスタマーとの関係構築に途中で挫折しないためには、構造化されたアプローチが必要です。そのための非常に効果的な方法は、トップカスタマーとQBRをスケジュールすることです。上手く進められればQBRは両社にとり非常に有益な時間になります。
現実的なメリットは以下の通りです:
QBRは、、、
・あなたとカスタマーののビジネスパートナーシップを強化します
・あなたの会社の経営幹部とカスタマーの経営幹部との良好な関係構築に繋がります
・あなたのプロダクトのROIを印象付け、カスタマーへより高い価値をもたらす機会を発見できます
・カスタマーヘルスを維持・改善するために何をすべきか・できるかについて率直な議論ができます
・次の契約更新タイミングに、カスタマーが更新してくれそうかどうかの懸念が解消されます
・ROI向上を真剣に追求し、90日以内に結果を出すことに全力を尽くしているあなたの姿を見せられます
つまるところQBRは、カスタマーが最も有益な方向にシフトするを手助けする機会であり、必然的にあなたも有益な方向へシフトできます。最終的にカスタマーがプロダクトを通じて成果を手にできなければチャーンされる可能性がとても高く、それは両社にとって最悪な結果です。
第4章 四半期ビジネスレビュー(QBR)で報告する内容は?
明快な目的や計画なしに、なんとなく経営者がQBRの導入を決めてしてしまうのは非常によくあることです。CXOクラスの経営幹部が何かの記事を読んだり、何かの会議に出て見聞きした結果、ある日突然、QBRがあなたの優先事項になってしまうケースです。
この記事をここまで読まれた人ならQBRの具体的な真価を理解されていると思います。その真価を発揮させるには、しっかりした計画を持つことがとても大事です。
具体的な目標とそれに至る道筋のないQBRは、参加者の時間を浪費するだけのただの無駄な会議です。プロダクトやサービスの価値は向上しません。あなたの会社に対する主要な利害関係者や意思決定者の抱く印象は向上しません。カスタマーの事業目標の理解も深まりません。QBRはごく小さい問題を解消したり、個別の問題のトラブルシューティングを行うための電話会議ではないのです。
ソフトウェアのバグやワークフローの問題を解決するのに経営幹部の時間は不要です。QRBはよりマクロな視点で高度な戦略レベルの議論をする場です。QBRを成功させるには意図をもった構造的なアプローチが必須です。
QBRの具体的な進め方の核心についてはこの記事に詳しく紹介されています。
QBRの構造に関する基本的なガイドラインは以下の通りです:
・議事進行を作成し、参加者全員に事前共有し、あらかじめよく理解してもらいましょう。議事進行を共有すれば、議論の脱線防止に役に立ちますし、さまざまな質問や懸案事項、または議論のポイントを持ち出す適切なタイミングを参加者に事前につかんでもらえます。
・ROIを強調しましょう。まずは、そもそもカスタマーがこのプロダクトを購入したのはなぜか、直近の四半期(またはそれ以降)にその目的はどれくらい満たされたかを振り返ります。そして、その期間にあなたがカスタマーへ提供した価値を示す数字やデータを提示しましょう。
・ベンチマークデータを紹介しましょう。企業は、競合他社と比較して自社の業績を把握することを重視します。固い指標を使い、成果をプロダクトに関連付けるられれば、今後もそのカスタマーとの関係が続く可能性は高くなります。
・次の四半期(または次のQBRまで)の目標を決めましょう。実はQBRは新しい収益機会をひき出すことがあります(つまりカスタマーがいう目標を達成するのに役立つ他のプロダクトやアドオンを提案できます)。
・最も示唆に富むデータを、カスタマー・ヘルス・インデックス(CHI)の形で提供しましょう。「CHIって何?」、「どう計算するの?」と思いましたか?はい、それは次章で詳しくご説明します!
第5章 カスタマーヘルスを測定する方法
カスタマー・ヘルス・インデックス (CHI)に関する詳細な説明はダン・ステインマン氏の記事を参照ください。
CHIとは「… 1〜100のスケールで完成度を示す単一の%スコア」です。即ち、100はカスタマーとの関係が完全に健全な状態であることを、 逆に0は完全に不健全な状態であることを意味します。 「完璧に完全」な状態は現実には存在しませんのでCHIが100になるよう設定すべきでありません。
ではどうやって適切な%を算出するのでしょうか?
慎重に判断して1つの数字に絞り込むのもよいですが、一番のお勧めは、複数の数字に重みづけして最終的なCHIを求める方法です。CHIは客観性が上がるほど、より深い洞察がたくさん得られます。
あなたのカスタマーは、抽象的で主観的な意見よりも、客観的で固い数字を好みます。CHIを使って大きなインパクトを得たいなら、算出ロジックを詳細に説明できる必要があります。
次の点を具体的に検討してみてください:
・プロダクト利用の深さ(利用されているプロダクトラインの幅)
あなたの会社が複数のプロダクトを提供している場合、カスタマーはどれだけ多くのプロダクトを利用していますか?
・プロダクト利用の広がり(カスタマー社内へのプロダクト普及度)
カスタマーの会社の部門/機能は複数ありますか?どの部門/機能もあなたのプロダクトを使っていますか?NOの場合、使われるべきですか?
・エンゲージメント
どのくらいの頻度でカスタマーはあなたとやりとり/接点をもっていますか?カスタマーはあなたのプロダクトを周囲に推薦したり、口コミしてくれますか?
・成長
カスタマーが最初にあなたと契約した時にプロダクトへ期待した価値は何でしたか?その価値は今どこまで大きくなりましたか?
・調査スコア(ネットプロモータースコアなど)
・カスタマーサポートの利用状況
問題解決(チケット)を数多く依頼してきているカスタマーは、プロダクトに不満を抱いている可能性が高いです。一方、問題解決を一切依頼してこないカスタマーは、プロダクトを頻繁に使ってないというサインの可能性があります。どちらもチャーンの前兆です。
・フィードバックの量と質
カスタマーがプロダクトに対し貴重なフィードバックをしてくれたなら、それは彼らがパートナーとしてコミットしてくれたサインです。つまりそのカスタマーはあなたのプロダクトへ投資していることを意味します。そういうカスタマーは、あなたの会社をパートナーと認めた将来像を抱いてくれています。
・カスタマーの年齢(契約期間)
カスタマーがあなたと長年付き合っている場合、それは満足している証拠です。そういうカスタマーは、将来もあなたと一緒にいる可能性が高いです。
CHIは膨大な手作業での計算が必要そうと思われるでしょう。確かにそのとおりですが、その分、このスコアが大いに有益であるとお互いが実感できることを願います。
どういう要素を重視し追跡すべきかという戦略に費やす時間と同じだけ、実際の数字を処理するのに費やす時間にも価値があります。
なお、Gainsight社のソフトウェアを利用すれば、同スコアは既に定義されていて、即計算可能だという点を補足しておきます。
第6章 絶対してはいけないQBRアルアル5つミステイク
QBRはどうあるべきかお分かり頂けたところで、次は一般的なNG項目についてお話します。
1. 可能な限り、ネガティブな事を詳細に議論するのは避けましょう。失敗をくどくどと話すより、成功したことを強調しましょう。そして、カスタマーには率直な意見を述べる時間をたっぷり与えてください。そうすればカスタマーは、どんな課題や問題もあなたなら解決できるという印象もってくれます。
2. カスタマーが問題や課題を指摘した時に、守りの姿勢に徹するのは避けましょう。この時もやはりポジティブな側面を強調し、議論は早々に問題に関する内容から解決方法に関する内容へとシフトさせましょう。
3. 可能な限り、個別のサポート問題やプロダクト問題といった枝葉を議論するのは避けましょう。QBRはそういう話をするための会議ではありません。経営幹部の貴重な時間は費わず「これらの問題は解決します」とだけ約束して本題に移るので全く問題ありません。
4. 会議に1時間以上かけないようにしましょう。カスタマーの貴重な時間を尊重しましょう。
5. 必ず次のQBRの日程を決めて会議を終了しましょう。そうすることで、それまでに議論したたすべての内容をあなたは確実にフォローし、次回までに必ず結果を出そうとしている姿勢をカスタマーに印象づけます。
第7章 四半期ビジネスレビュー(QBR)テンプレート
すべてのQBRが予定通り進捗しているかどうか確認するには、進捗管理に役立つ独自のカスタムテンプレートの検索・作成がとても役立ちます。
Gainsightを利用されている方なら、インスタンス内の記録データを組み込んだビルトインのテンプレートにアクセスできるので、カスタマイズされたデータを使いQBRに活用できる豊富なスライドを簡単に作れます。あるいは、テンプレートを使い独自のプレゼンテーション資料を作れます。
ただし注意すべきことがあります。QBR資料は定型テンプレートに依存しすぎないよう気をつけてください。
そもそもQBRを行う理由は、カスタマーへあなた独自の価値を示すこと、あなたがカスタマーをどれほど重要な存在と認識しているか印象づけることです。つまり各会議で議論する内容とその資料は、各カスタマーに応じ個別に調整することが必須です。
慎重に計画し実行されたQBRは、あなたの会社とカスタマーとの架け橋となり、カスタマーのライフサイクル全体を通じて両社に固い結びつきが形成されることを約束してくれることでしょう。