
サブスクリプションなどに代表されるリテンションモデルやSaaSビジネスが急速に発展している今。顧客への提供価値を高め、カスタマーサクセスを実現するために欠かせない指標が、「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」です。
本記事では、NPSの定義や計算方法をお伝えするとともに、SaaS企業での成功事例や、NPSスコアセグメント別のカスタマー対応策、そしてNPS調査にお勧めのソフトウェアなど、幅広い情報をご紹介します。
Index
1)NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは
・NPSの定義と計算方法
NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは、顧客ロイヤルティを測るひとつの指標です。
特定のプロダクトやブランド、企業、サービスに対して、「顧客がどれくらいの愛着や信頼を感じているか」を測ることができるため、顧客体験の評価や改善のために多く使われています。
そして、その数値を手に入れるのに必要な質問はただ1つ。
“0から10までの尺度で、あなたはこの [プロダクト/ ブランド/ 会社/ サービス] をどの程度お勧めしますか?“
評価が0〜6と答えた人は批判的な人(デトラクター)とみなします。7と8は受け身な人。そして9または10と答えた人は、強くお勧めする人(プロモーター)です。
そしてNPSは、プロモーターの割合からデトラクターの割合を差し引いて出します。
スコアの理論スコアの理論値はマイナス100 〜プラス100の範囲です。これ以上にシンプル、かつ強力な指標はありません。
・NPSが人気の理由
現在、フォーチュン1000にリストされている企業の3分の2以上が、ハーバードビジネスレビュー2003年の記事「成長するのに必要なたった1つの数字」でフレッド・ライヒヘルド氏が紹介したあるカスタマーロイヤルティの指標、NPS(ネット・プロモーター・スコア)を使っています。
2003年以来、NPSの人気は指数関数的に増幅し、その数値を追跡する専門アプリが次々登場し、リサーチャーはその数字の研究に没頭しました。
テンキングループによる最新の米国消費者1万人調査によると、20を超える業界において、NPSとカスタマーローヤルティとの間に直接的な関係が認められました。291社の企業において、NPSと既存カスタマーによるリピート購入可能性との間に高い相関関係が認められました。
また、これら20業種において、プロモーターはデトラクターに比べ購入可能性が92%と高く、新製品を試す確率は9倍、リピート購買行動は5倍高いという結果でした。また、企業が間違いを犯した時にも、プロモーターはデトラクターよりも企業を許す可能性が7倍高いという結果も出ました。
顧客ロイヤルティは利益をもたらします。それを測定して、改善できる力は今や組織にとって必要不可欠です。
・NPSの起源
“その部屋にいたCEOたちは、顧客ロイヤルティが秘める力をよく理解していました。彼らは、カスタマーや社員との間に強いロイヤルティ関係を築くことで、自社を業界リーダーへと変革してきました”
– フレッド F ライヒヘルド「成長するのに必要なたった1つの数字」より
ライヒヘルドによるNPSの起源の話は、あるブランドの取締役会の場面から始まります。彼らはカスタマーロイヤルティを高めるために何をするべきかを議論するために集まっていました。
そして、その場でRent-a-Car社のCEOが話を始めると、誰もが耳を傾けました。なぜなら、彼は伝統的な複雑かつ欠陥のあるカスタマー調査手法を使わずに、ロイヤルティを定量化する新たな方法を見つけていたからです。
その方法は、カスタマーにたった2つの質問に答えてもらうものでした。
・あなたのレンタカー体験のクオリティをどう評価しますか?
・私たちからもう1度レンタルする可能性はありますか?
この方法は大変シンプルなので、結果はほぼリアルタイムに得られ、遠く離れた支店にも即届けることができました。
そして、同社は他にあることをしました。
「最高のスコアにチェックを付けたカスタマーの人数を数えた」のです。
なぜ彼らは、最高点の10をつけなかったカスタマーを無視したのでしょう?
それは、最も幸せを得たカスタマーに集中することで、同社の主要成長ドライバーを明らかにするためでした。再度レンタルをしてくれて、かつ友人にサービスをお勧めしてくれるカスタマーに集中することにしたのです。
今日のNPSも同社のシステムからそれほど変わっておらず、2つの質問から構成されています。
1)0から10までの尺度で、この [プロダクト/ ブランド/ 会社/ サービス] をどの程度お勧めしますか?
2)そのスコアにしたのは、なぜですか?
・NPSの成功事例:イギリス『レシート銀行』の場合
NPSの人気は、NPSを「知るべき大切な数字」から「成長に必須な、必ず追跡すべき最も重要な数字」へと格上げしました。しかし、その理由を理解するには、企業がこの情報を実際どう使っているのか理解する必要があります。
レシート銀行は、会計士、簿記担当者、小規模企業の貴重な時間と費用を節約することで有名な、簿記プラットフォームを提供するイギリスの会社です。そして、彼らのサービスは全てサブスクリプションモデルです。
あらゆる事業がNPSの恩恵を受けることができますが、カスタマーに何度も選ばれ、使い続けてもらわなければならないサブスクリプション型の事業の成長は、特に顧客ロイヤルティに本質的に直結しています。
その時、レシート銀行はある課題を抱えていました。NPSを測定することに価値を見出した同社は、ユーザー群の中からサンプルグループを抽出して、月1度 NPS調査メールを送り始めました。しかし、この方法だと設定に時間がかかり、かつNPSは月1度しか更新されません。
レシート銀行全社でカスタマー体験を改善するための新しい施策が絶え間なくリリースされていましたが、月1度の調査では必要なフィードバックをタイムリーに得られませんでした。加えて、ユーザーは調査メールに回答する動機が薄く、回答率も低かったのです。
つまりレシート銀行は、プラットフォームを利用するユーザーの満足度に加え、自社プロダクトがどれほどよく使われているかを、スピーディかつ効率的に測定できる方法が必要としていました。
このような課題を解決するため、彼らはユーザーがログインしてプロダクトを使っている間に、以下のようにNPS調査をアプリ内で起動する方法をテストしました。
彼らの判断は正しく、なんと最初の48時間で、この調査の回答率は10倍にも伸びました。
さらにレシート銀行は、同社のプラットフォームを、マーケティングのキャンペーンや、カスタマーへ送信したメッセージ、A / Bテスト、ユーザー最新動向などの調査に利用すると同時に、NPS調査をアプリ内で配信するカスタマーフィードバック管理プラットフォーム「Wootric」と統合して利用しました。
レシート銀行のカスタマーエクスペリエンスマネージャー、スティーブ・ルーカス氏は言います。
「セグメント社が提供する理想的なソリューション(レシート銀行の各チームが必要に応じツールをオンにできる中央データ管理&分析プラットフォーム)のおかげでWootricを簡単にインストールでき、たった数時間で、これまで経験したこともないNPS調査データが手に入りました」
先ほどお伝えしたように、NPSの質問をアプリ内で配信することで、カスタマーがプロダクトを使っている間でも回答率は高くなります。さらにアプリ内調査は、よりアクティブなユーザーの代表サンプルが手に入るため、レシート銀行はカスタマーの幸福度をより正確に把握することができたのです。
スティーブ氏はさらに言います。
「NPSデータを取得するアプリ内メッセージングを使うことで、非常に高いレスポンス(10倍)を得られました。そしてリアルタイムのNPSデータを手に入れられたことで、ユーザーをより良くサポートし、根本的な原因を解決して、全てのカスタマー体験を改善することができました」
「そして、フィードバックのループを効果的に回し、よくあるカスタマー体験上の課題を特定することで、わずか6カ月のうちに、NPSを少なくとも40%改善することができたんです」
また、ほとんどの企業同様に、レシート銀行でも、NPSの基本的な質問にはユーザーが自由回答できるオープン質問を組み合わせていました。これらの情報を武器に最善案をテストすることで、カスタマーにとって何が最善策かが確認できます。
企業としてのベースラインのスコアを一度設定すれば、A / Bテストなど手段を講じることでスコアを継続的に改善していくことが可能なのです。
NPSは、カスタマーサクセスプログラムの貴重な施策でもあります。
Wootric社によれば、カスタマーサクセスチームはNPSを継続的に測定して、問題の兆候を早期に発見することで、カスタマーを囲い込み、アップセルが出来そうなプロモーターを特定し、カスタマーの成功をお祝いして、プロダクトの評価をより高めることができると言います。
このように、NPSはユーザーの動向に関する警告を発したり、プロダクトを高く評価するユーザー数を増やしたり、さまざまな局面で役立ちます。プロモーターがリピーターになったり、アップグレードしたり、新しいサービスを試したり、周囲に推薦したりする可能性が高いのは当然のことなのです。
・NPSセグメント別のカスタマー対策
さて、あなたのプロダクトをプロモーター(強くお勧めする人)、受け身な人、デトラクター(批判的な人)が誰かが分かったら、次は何をすべきでしょうか?
【プロモーター(強くお勧めする人)に対して】
彼らはあなたのプロダクトで成功を収めているので、次に検討すべきは、アップグレード、エクスパンション、または追加機能の契約をしてもらうために何をすべきか、です。
ただし、プロモーターがいくら契約準備が整っているといっても、即座に営業に集中してはいけません。まずは、感謝の意をしっかり伝えましょう。彼らがあなたのプロダクトをもっともっと愛してくれるように仕向けることが大切です。なぜなら、彼らはあなたにとって最高のカスタマーだからです!
そして最も重要な点は、彼らがあなたのブランドの援護者になってくれるよう働きかけることです。レビューをアップしたり、ツィートしたり、インスタグラムの最新ハッシュタグに参加してもらうよう頼むことを躊躇しないでください。非公開のFacebookグループや、サイト内コミュニティの「インサイドサークル」に参加してもらえるようも頼みましょう。
あなたの大切なカスタマーをさらに惹きつける最高の方法は、あなたが彼らに大変感謝していることを体感してもらうことです。
【受け身な人に対して】
このケースは少しやっかいです。彼らは感動レベルにまでは達していないので、あなたがすべきは、まずその理由を正しく理解することです。
彼らは皆さんのプロダクトで期待した成功を達成できていない可能性があります。なぜでしょう? あなたの時間をかけてそれを理解する価値があります。
【批判的な人(デトラクター)に対して】
中にはどう対応しようもないケースもあるので、そこは心配する必要はありません。恐らく彼らはあなたの理想的カスタマーではないのです。例えば、冷凍ピザを速やかに加熱したくて、オーブントースターの代わりに間違ってレンジを購入してしまったケースのように、あなたのプロダクトを最初から使ってはいけない人もいます。
理想的でないカスタマーは、確実にあなたの時間とリソースを浪費し、それでも決して満足することはなく、より安価な競争相手へいつでも乗り換える用意があり、なによりプロモーターには決してならず批判者になりがちです。そのような場合、彼らに適したプロダクトを勧めましょう。(仮にそれが競合プロダクトであっても)彼らの希望が叶うプロダクトを指南しましょう。そうすれば彼らはとても感動します。
彼らをふるい落とすことで逆に、あなたを愛し、あなたを宣伝し、決してカスタマーサービス部門を怒り心頭にさせないターゲットカスタマーに集中することができます。
ただし、それ以外の残りの人たちは正当な不満を持っており、満足させるために策を講じる価値があります。まずは、彼らがあなたの理想的カスタマーかどうか(つまり、オーブントースターが本当に必要な人かどうか)判断しましょう。
そして万が一、ターゲットカスタマーだった場合、なぜ彼らがあなたのプロモーターでないのかを丹念に調べてください。彼らは最悪な体験をしたのでしょうか? それとも彼らが望んだ結果をまだ得られてないだけなのでしょうか?
最後に大切なのは、どのセグメントであろうとも、有難くも彼らからフィードバックがもらえれば何らかの学びがあるという点です。素早くシンプルに感謝の意を伝えることをくれぐれも忘れないでください。
このように、NPSは決して終わりのない、終わるべきでないものです。絶え間なく続ける努力によって向上していきます。そしてカスタマーがあなたのプロダクトをどう思っているのかという、彼らの脈拍をあなたの指で常に感じ続けることは、事業を推進していく上で常に中心に位置づけられるべきことなのです。
※出典元:Wootric社の許可を頂き原文「The Loyalty Metric: A Brief History of Net Promoter Score and How to Use it in Practice Today」の和訳を紹介します。
2)NPSを調査するソフトウェア
カスタマーが自社のプロダクトを、周囲に心からお勧めしたいほど価値あるものだと思っているかどうかを知ることはとても大切です。しかし、実際にカスタマー1人ひとりがプロダクトをどう評価しているかの本音を知るのはとても難しいことに感じるかもしれません。
・NPSソフトウェアの主な機能
最も簡単な方法は「NPSソフトウェア」と分類されるソフトウェアを利用して、カスタマーに簡単なアンケートを送信することです。一般的なNPSソフトウェアの主な機能は以下の通りです。
・アンケート送信プロセスの完全自動化
・アンケート送付タイミングのカスタマイズ
(例:全対象への一斉送付、特定セグメントのみへの送付、購入後一定日数後の送付、など)
・カスタマー別個別データの収集・管理
・NPSスコアの自動計算
・リアルタイムでのNPSスコアのトレンド追跡&分析
・他のツールとの統合・データ連携
・NPSソフトウェアの評価ポイント
1)価格
金額の大小に加え、利用スタイルに応じて最適なプランがあるかどうかも大切です
2)最小の契約期間
通常は月次の契約が可能ですが、年次契約にすることで割引が適用されることが多いです
3)フリートライアルの有無
大抵、フリートライアルが用意されていますが、期限付きの場合とそうでない場合があります
4)カスタマーサービス&サポート
どのような問い合わせ方法(ライブチャット、メール、電話、セルフサービスなど)が可能なのか、困ったときに希望したサポートが受けられるのかどうかは重要な点です
5)レビュー評価
実際に利用している人の評価レビューは大切です。点数に加えてコメントも有用です
・その他の要検討事項
・どのような媒体(電子メール、モバイル、ウェブ、SMSなど)でアンケートを作成できるのか?
・NPSに加え、顧客満足に関するその他の調査も実施できるのか?
・各プランでは、何件・何回まで調査を実施できるのか?回答収集数に限界はあるのか?
・NPS調査のプロセスはどこまで自動化され、貴重な時間をどれだけ節約できそうか?
・どれだけ異なる顧客セグメントに対して一度に複数のアンケートを実施できるのか?
・独自ブランドを使えたり、フォローアップの質問文をカスタマイズしたりできそうか?
・回答者のスコアに基づいた異なるフォローアップを展開する仕組みがあるか?
・1人ひとりのスコアをモニタリングし、異常値に対してアラートを出すことができるか?
・カスタマージャーニーにおけるあらゆるカスタマー経験について調査できそうか?
・回答に応じてとるべき対策について分かりやすいアドバイスがあるか?
・どのようなソフトウェアと連携することが可能か?
・お勧めのソフトウェア5選
FeaturedCosutomerが運営する、B2Bソフトウェアに関する顧客レビュープラットフォームの情報に基づき、NPS調査に役立つソフトウェアを5つほどご紹介します。最初の2つは日本語対応があります。残りの3つは現時点で日本語対応未了ですが、英語圏では広く普及し大変評判のよいツールですので、機能やサービスなどを比較するのに役立ちそうです(2020年夏時点の情報に基づいています)。
1)クアルトリクス / Qualtrics
・レビュー https://www.featuredcustomers.com/vendor/qualtrics/
・ウェブサイト https://www.qualtrics.com/jp/
・NPSツール https://www.qualtrics.com/jp/customer-experience/nps-software/
2)SurveyMonkey (サーベイモンキー)
・レビュー https://www.featuredcustomers.com/vendor/surveymonkey/
・ウェブサイト https://jp.surveymonkey.com/
3)Wootrics (ウートリクス)
・レビュー https://www.featuredcustomers.com/vendor/wootric/
・ウェブサイト https://www.wootric.com/
4)RETENTLY (リテントリー)
・レビュー https://www.featuredcustomers.com/vendor/retently/
・ウェブサイト https://www.retently.com/
5)Nicereply (ナイスリプライ)
・レビュー https://www.featuredcustomers.com/vendor/nicereply/
・ウェブサイト https://www.nicereply.com/
ソフトウェアの世界は日々進化し、次々と新しいツールも登場します。ぜひ皆さんでも最新情報を入手し、実際の導入目的や導入タイミングを踏まえてベストなものを見つけてくださいね。
NPSの活用を始めた方は、ぜひ応用編の記事「カスタマーサクセスの重要指標:NPSをフル活用する5つの戦略」も併せてご覧ください!
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監修
弘子ラザヴィ Hiroko Razavi
経営コンサルタント。サクセスラボ株式会社代表取締役。一橋大学経営大学院修士課程修了。大学3年次に日本公認会計士二次試験合格。公認会計士として数多くの企業実務に触れたのち、経営コンサルタントに転じる。ボストンコンサルティンググループでは全社変革・企業再生プロジェクトを、シグマクシスではデジタル戦略プロジェクトを多数リード。2017年、スタンフォード経営大学院の起業家養成プログラムIgniteに参加するためシリコンバレーに在住した時にカスタマーサクセスに出会う。帰国後、サクセスラボ株式会社を設立。シリコンバレーで築いたネットワークを活かし、カスタマーサクセスに本気で取り組む日本企業を支援している。また日本で活躍するビジネスパーソンに向けた情報サイト「Success Japan(https://success-lab.jp/successjp/)」の運営などを通じ、カスタマーサクセス市場の活性に努めている。