アダプションの努力の方向、間違ってませんか?: チャーン防止が目的なら要注意

カスタマーサクセスの目的の本質を論じた先の記事「カスタマーサクセスの目的って何でしたっけ?: 日本に生まれている混乱と真の目的」は、お陰様で多くの方に関心を寄せもらいシェアして頂きました。有難うございます。

 

同記事でキアさんが主張する「カスタマーサクセス 2.0の目指すべき所」は、エクスパンションまで高いレベルで目指す究極の目標でした。今回はその手前のアダプションについても「正しい目的を見誤ってはいけない」という記事です。

 

ともに「チャーン防止が目的であっては片手落ち」がポイントです。

 

今回紹介するレイチェルさんの主張は、「アダプションは利用量・活動量の話ではない」がポイントです。プロダクトがふんだんに利用されて(さえ)いればアダプションOK、では全くなくて、最終的にブランドのファンになってもらうことが重要、それにはプロダクト「以外」の側面も重要、という内容です。

 

具体的にすべきことが紹介されているため本文は長めですが、お時間なければ是非「5.結論」から読んでみてください!

 

注:著者 Rachel Orston氏の許可を頂き原文の和訳を紹介します


 

先日私は、SaaStr Annual 2018に登壇し、アダプションについてスピーチしました。SaaStr Annual は、SaaS事業の創業者、経営者、VCらが年に1度、何万人も集まり、SaaS事業を飛躍的に成長させるのに必要なことを徹底的に議論するイベントです。

 

イベント期間中は、出来立てスタートアップのSaaS事業から、IBMのような数千億円規模を誇るSaaS事業ポートフォリオに至るまで、さまざまな成長ステージで活躍するカスタマーサクセス経験者の話を見聞きし、私自身も色々と学びました。

 

私が登壇したセッションでは、予測可能で意義あるアダプションを推進するためにカスタマーサクセスチームが習得すべき重要な基本事項について話しました。

 

本稿では、セッション内容も踏まえつつ、アダプションの基本事項と、組織が採用すべきアダプション戦術についてご紹介します。

 

ユーザーアダプションがあらゆるSaaS事業にとって死活問題な理由

 

もしあなたがアダプションを成功させることの戦略的価値に対しあまりピンときていないならぜひ思い出してください、アダプションを成功させることがより高いリテンション率へ近道だということを。

 

ベンチャーキャピタリストのトマシュ・トングス氏曰く:
”月次チャーンが ?5%の事業は、月次チャーンが 5%の事業に比べ、年間73%も多くの売上を獲得します。それはそれは巨大な違いです!”

 

SaaS事業にとりチャーンを防止することの重要性が浸透したことで、チャーンの抑制に効果的なカスタマーサクセスの役割は異論なく市民権を得ました。

 

カスタマーサクセスは本来、それを実行する部門にとり、またはその背景にある哲学として、事業の成長エンジンとして重視されるべきものです。しかし現実は、チャーンの恐怖への対策や守りの姿勢と位置づけている企業が未だに数多く存在します。

 

その点こそ、私が指摘したい最も重要な課題です。

 

誤解しないでください、チャーンを抑制することは絶対的に重要で必須です。チャーンは企業の成長を測る指標として誰もが注視すべき指標です。

 

問題は、チャーンの恐怖、即ちチャーンは致命傷だから今すぐ対策を打つべし、という必然性からカスタマーサクセスが誕生した場合です。なぜなら、チャーンへの恐怖から誕生したカスタマーサクセスは誕生当初からすべてが本質的に受け身(リアクティブ)だからです。

 

私が創業したUserIQ社では、カスタマーの事業は複数ステージにわたる複数ステップからなるカスタマージャーニーを経て成長していくと考えます。それは、公園を散策するような簡単で楽なものでは決してなく、逆に、通過せねばならない急な坂道を登るような一大仕事です。

 

 

現実は、カスタマーサクセスに着手する前の足並みを揃える段階で四苦八苦したり、何から着手すべきか考えあぐねて手足がとまったりする企業がとても多いです。また、一気にリテンション施策へジャンプしたがる企業も多いです。

 

ハッキリ言います。私の経験上、カスタマーの事業が成長する道のりに近道は1つもありません。

 

アダプションをおざなりにしたり、完全にスキップしたりして、後で大きなツケを払うことになる企業があまりにも多いです(自分自身の経験含め)。

 

大きくなった企業ほどそういう問題行為をとりがちなのを、私は何度も目にしました。”成長著しい”事業、または成長?成熟期に至る事業は、リソースが充分ないにもかかわらず、リテンション、エクスパンション、アドボカシーのテコ入れへ一足飛びにショートカットしようとするのです。

 

断言します。ユーザーアダプションは、カスタマーサクセスだけの課題ではありません。

 

SaaStr社創業者のジェイソン・レムキン氏の予測通り、私たちはフリーミアムの黄金時代に突入しました。2025?2028年頃には、ロータッチとフリーミアムのユニコーンが100社は出現し、結果、マーケティング責任者や営業責任者にとってユーザーアダプションは不可避な重要課題になっていることでしょう。

 

もし御社のプロダクトがフリーミアムモデル、または無料トライアルを提供している場合、注意すべき点があります:

 

1. あなたのユーザーは同時にバイヤー(訳者注:購買担当/決裁者)です
2. 彼らがあなたのプロダクトを購入する前に、オンボーディングとアダプションは既に始まっています
3. あなたのロングテールユーザーは、あなたのプロダクトをマーケティングする際の秘密兵器になります

 

仮にフリーミアムが収益全体の20%だとして、その2,000人のカスタマーがあなたのプロダクトに満足し、周囲に共有してくれ、tweetしてくれ、友人にお勧めしてくれていたら… それは非常に強力な武器です!

 

最高のソフトウェア会社はユーザーの口コミから誕生します。幸せな気分のカスタマーが多いほど、肯定的な口コミはより速く広がります。

 

ということを念頭に、以降、ユーザーアダプションを成功させ、ユーザーが周囲に強くお勧めしたくなる「ワオの瞬間」を生み出すのに必要なことを紹介します。

 

1. 理想カスタマーの人物像と彼らが “WOW!” と叫ぶ瞬間を具体化する

 

“シンプルな、即ち優れたプロダクトの特徴は、機能の豊富さではなく、機能のユーザーニーズに対するフィット度合だ” ?? by RRE Ventures社

 

アダプションを成功させる上で沸き起こるさまざまな “なぜ?” への答えを知る最善の方法は、「あなたのプロダクトにとって最高のカスタマーは誰か?」を考えることです。

 

チャーンリスクの高いカスタマーや、”最悪な状態” になりそうなカスタマーを発見するツールは山ほどあります(要は、皆さんが使い慣れた「ヘルススコア・ダッシュボード」です)。でも私には、どんな人が素晴らしいカスタマーなのかを知ることの方がはるかに重要です。

 

「あなたのプロダクトにとって最高のカスタマーは?」と聞かれて答えに窮する人があまりに多いことに私はいつも驚きます。

 

彼らは目の前にあるチャーンの恐怖に脅かされ、またチャーン自体が問題の核心に居すわっているため、最も幸せなユーザーがどんな人なのか、そして彼らが期待成果を得るためにあなたのプラットフォームをどう使っているのか・なぜそうなのか、などを具体的に理解できていません。

 

考えてみてください。あなたの最高のカスタマーがどういう人なのか分かれば、彼らが「ワァオ(すげぇ)!」と叫ぶ瞬間を定義できるのです。

 

デイビッド・スコック氏が発明した「ワオの瞬間」とは、ユーザーがあなたのプロダクトの素晴らしさに感動して「すげぇ!」と叫ぶ瞬間のことです。それは、無料ユーザーから有料ユーザーになてくれたり、アップグレードしてくれる可能性が生れる瞬間です。

 

あなたのプロダクトの「ワオの瞬間」を具体的に言えますか? あなたのアプリケーションが使われる主な理由は何ですか? それは彼らにどのような価値・又は事業成果を提供していますか?

 

あなたのプロダクトがもつ1つ1つの機能はとても重要ですが、それと同じくらい、それが「ワオの瞬間」を生み出すパワーも重要なのです。

 

ユーザーは、あなたのプロダクトを採用すべき理由を必要としています。支払うコストに見合う大きな報酬が必要なのです。

 

彼らを満足させるため、以下の問への答えを用意しましょう:
・あなたのカスタマーがあなたのアプリケーションを選ぶ正当な理由/価値は何ですか?
・カスタマーがあなたのアプリケーションを使い続ける理由/動機は何ですか?

 

2. プロダクトの機能がどう活用されているか分析する

 

“なぜ(Why)?” の答えがみつかったら、次は “何を(What)?”を考える番です。

 

・理想カスタマーの「ワオの瞬間」に繋がる機能はどれか?
・既存ユーザーが最も実行しているアクションは?

 

すなわち、離脱するユーザーの行動でなく、使い続けてくれるユーザーの一連の行動を深く理解するのです。上記の質問の答えを見つけるのはそれほど難しくありません。以下の方法を試してみてください:

 

1.継続している既存ユーザーの行動をセグメント分類し、離脱したユーザーの行動と比較分析して、相関のない行動をリスト化しましょう。

 

すぐに意味ある発見をできる可能性は低く、何度も深ぼって分析する必要があります。既存ユーザーと離脱ユーザー、それぞれ少数サンプルを抽出して比較してみるのもよいかもしれません。

 

最終的に成果に繋がる示唆を得るため、大半の既存ユーザーを少数の離脱ユーザーと比較し相関関係をみいだしましょう。そうすることで、既存ユーザーが御社のプロダクトで解決しようとしている課題を正確に把握できるようになります。

 

2.プロダクトをローンチしたばかりでサンプル数が少ない、またはデータ収集が不十分な場合、ぜひユーザーさんへ直接電話して尋ねましょう! 何かを売り込むためでなくインプットを求めて電話したなら、きっと皆さん驚くほど意見を話してくれます。

 

“何” と “なぜ” の答えは見つかりそうですか? 見つけた答えは「ワオの瞬間」 のインパクトを大きく左右します! ただ、答えを見つけるにはデータが必要で、場合によって複数の組織が連携して作業する必要があります。

 

3.カスタマーサクセスチームとプロダクトチームを一枚岩にする

 

“何” と “なぜ” の答えが最もたくさん眠っていて注目に値する部門は、プロダクトチームとカスタマーサクセスチームです。

 

問題なのは、大抵の場合、両チームは自分たちの領域に閉じていて、それぞれが自分たちの仕事をしているという点です。通常、両チームは別々のシステムを利用しており、ユーザーアダプションに関して同じような質問を抱えながら、まったく異なるデータセットを見て検討しているのです。

 

我々UserIQ社は、SuccessHacker社とProductCamp社の協力のもと、あるベンチマーキング調査を実施しました。具体的には、カスタマーサクセス部門およびプロダクト部門の幹部数百人に対し、あなたのチームが現在どのように協力し合っているかを尋ねました。

 

同調査は初めての試みで、多くの発見がありました。たとえば、プロダクトチームとカスタマーサクセスチームの8割は別々のシステムを利用している、などです。更に、両チームの掲げる理想的カスタマーの人物像が通常一致していないと互いに感じている、という点も大きな発見でした。それは、カスタマーやユーザーのことを理解することがオンボーディングに成功するために非常に重要であるという事実を踏まえると、非常に由々しき問題です!

 

この記事を読まれてる皆さんに伺います。

 

あなたが何の仕事をしてるかに関わらず、他部門の同僚に「理想的なカスタマーって?」と質問した時、あなたが考えているのと同じ人物像の特徴が彼らの口にのぼるでしょうか?

 

相手が分からないというのは恐ろしいことです。複数のプロダクトラインを抱え、ユーザータイプもそれぞれ異なる場合は更に複雑です。

 

カスタマーサクセスとプロダクト、両チームの考える「理想的なカスタマーとは」および「彼らの成功とは」に関する認識を一枚岩にする方法は、互いの仕事を統合する余地を検討することです。

 

具体的には、カスタマーサクセスチームの業務フロー(カスタマージャーニーに沿ってカスタマーに前進してもらう)と、プロダクトチームの業務フロー(プロダクトの主要機能をユーザーへ使いこなしてもらう)を並べてみてください。そして両フローを、プロダクトに関連させた1つのカスタマージャーニーマップに統合できないか検討してみてください。

 

ポイントは、プロダクトチームとカスタマーサクセスチームが、互いに注目するところについて議論し、持っているデータを共有すること、結果として最終的に理想カスタマーにオンライン・オフラインでどう「ワオの瞬間」を生み出すかの合意案に至ることです。

 

4.オフライン行動 & 真実の瞬間 を無視しない

 

アダプションは、ユーザーにオンラインとオフラインで特定の行動をとってもらい「真実の瞬間」に至ってもらう上で不可欠です。

 

「真実の瞬間」は、カスタマーの皆さんがあなたのブランドに対し長期的にどういう気持ちを抱くか、に多大な影響を与える瞬間です。

 

以下は非常に重要なオフラインの瞬間です:

 

1.関係性が変化した瞬間 Change in relationship

ユーザーとのやり取りが減ったり、「ワオの瞬間」を得られていないという事実を示す兆候は、契約直後またはオンボード終了直後に現れます。

 

以下の質問を検討してみてください:
・彼らには別の独自戦略があるのでしょうか?
・彼らのリソースや能力に不足があるのでしょうか?
・組織上の何かが変化したのでしょうか?

 

2.危機勃発の瞬間 Crisis

割と早い段階で「ワオの瞬間」が生まれ、利用量が急増したとしても、突然の落ち込みに気付くことがあります。

 

・チャンピオン(訳者注:プロダクトを最も使い倒してくれてるユーザー)が退社していませんか? または昇進して異動していませんか?
・より大きな戦略的問題または優先順位の高いこと(つまりM&Aなど)が発生していませんか?
・個人的な問題(仕事が溢れている、フラストレーションがたまっているなど)が生じていませんか?

 

3.予期せぬ喜びの瞬間 Unexpected Delight

あなたが全く期待もしていなかった何かとても素晴らしいことをカスタマーがしてくれたら、ぜひ「ワオの瞬間」達成を祝って彼らの行為に報いましょう。

 

以下のような対応を検討してください:
・バッジ、ギフトカード、その他のスワッグ(訳者注:ちょっとした日常品)を贈る
・電子メールやアプリ内で「ハイタッチ(High-five)」を送る
・同類のユーザーに向け、彼らの成功体験談やアドバイスをブログ投稿やイベントなどで紹介してくれるよう依頼する

 

5.アダプションに関する新しい結論

 

もしあなたが既に、ログイン、クリック数、プロダクト利用度をトラッキングしているなら、それはとても素晴らしいことです!

 

しかし、アダプションは活動量だけの話ではありません。アダプションは、プロダクトを使い続けることとプロダクトの背景にあるビジョンやミッションに対して、ユーザー1人ひとりに納得感や確信を抱いてもらうことなのです。

 

アダプションを正しく実行するとは、以下の状態になることを意味します。

 

・プロダクト、カスタマーサクセス、営業、マーケティング、あらゆる部門において “何” と “なぜ” が完全に一枚岩になっていて、アダプションに向け協働体制が敷かれている

 

かつ

 

・ユーザーがあなたの会社のミッションに惹かれ、会社のブランドに感情的に好意をもつ状態にもっていくことが目的になっている。そのために、プロダクトがどう使われているかの分析結果を、プロダクト「以外」でのユーザーとのやり取りにも反映させている

 

こういった状態になれば、あなたはもうアダプションを完全掌握したと同じです。チャーン抑制が目的ではない、真のアダプションの基礎を手に入れています。

 

同時に、チャーンはそもそも最初から防止できています。競合他社の攻撃に対しビクともしない強い要塞を築くことができているからです。

 

「ワオの瞬間」をもたらせないアダプションの努力は、いくらしたとしても、いずれ必ず競合他社に「ワオの瞬間」を奪われる結果に終わるのです。

 

過去10年間、我々はバイヤージャーニーに焦点を当ててきました。

 

しかし、今はもう誰もが目を覚ましました。バイヤージャーニーではなく、カスタマージャーニーに焦点を当てるカスタマーサクセスこそが、事業の指数関数的成長に必須なエンジンだ、という事実に皆気付いています。そして、アダプションを正しく実行することはエンジンに正しく燃料を投下するのと同じなのです。

 

(原文)

 

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