
日本でもカスタマーサクセスの議論が活発になるにつれ、局所的に混乱・違和感が生まれているようです。混乱自体は、新しい概念が浸透する時に必ず通る道ですが、一方で、本質を見失った誤解が広がるのは残念です。
そこで、Customer Success Japan (当サイト)を運営する弘子ラザヴィ(私)として、私が最近思うことを最初に少し書きたいと思います。
混乱の根っこの最たるは、「カスタマーサクセスは何を目指すのか?」という、カスタマーサクセスの存在意義・目的に関する認識が、人により・各社の成長フェーズによりズレることにあるように思います。
よくある混乱の1つは、「カスタマーサクセスは(SaaS事業にとり死活問題の)チャーン防止が目的」を暗黙の前提において、オンボーディングなどのチャーンリスクが高いプロセスをいかに上手く進めるか、同時にチャーンリスクをいかに早く発見して先手をうつか、という “チャーン防止の方法論に終始する” 議論への違和感です。
「チャーン防止」。それは誰も異論のない非常に重要なことです。 例えばセールスフォースの場合、それがカスタマーサクセス誕生のキッカケでした。
しかし、カスタマーサクセスの本質的な存在意義を改めて考えた時、決して忘れてはいけない重要な事実があります。
それは、世の中のデジタル化と共に消費者(ひいてはエンタープライズのバイヤー)の期待・嗜好・行動が大きく変化した、という事実です。今や、安くて良いものを便利に買える、だけではダメで、ワクワクする・感動するカスタマー体験を提供し、彼らを「それ無しでは事業が成り立たない(or 生活できない)」域のファンにできなければ、やがて会社の寿命が尽きる、という時代に今、あらゆる業界が突入している、という事実です。
この事実を受けて誕生したカスタマーサクセスの本質的な目的は、既存カスタマーを究極的に以下の状態にもっていくことです。
・個別プロダクトの価値を超え、あなたの会社がいなくなっては自社事業(or 生活)が成り立たたない
・素晴らしさを周囲に広めたい!という、理屈を超えたエモーショナルな愛着心から口コミ等の行動をした・したい
この究極状態を目指しつつも、具体的に何をするか(How)は個社毎・成長フェーズ毎に違いますし、誰もがいきなり究極状態を目指すわけでない(すべきでもない)のも明らかです。たとえば、もし月次チャーンが8%ならチャーンの火消しが最優先事項でしょう。プロダクトの利用促進策も同時に着手したい所です。その方法論を考え実行することは、喫緊かつ正しい課題認識です。
その上で大切なポイントは「うちはチャーン防止(高いリテンション率を維持)できている。従ってカスタマーサクセスはこれ以上必要ない」と慢心してはいけない、ということです。チャーン防止は最低限必要ですが、本質的に目指すべきは更に高い山なのです。
前書きが長くなり恐縮ですが、以上が私、弘子ラザヴィの考えるところです。
以下、そんな私の課題意識に触れた投稿をご紹介します。以前の投稿「カスタマーサクセスのキャリアで成功したい皆さんへ3つのアドバイス」でお馴染み、キア・プームさんの最新記事です。
彼女の主張する「カスタマーサクセス 2.0の目指すべき所」は、明らかにかなり高い別次元です。個人的には、私の前職の経営コンサルタントが従来担当してきたレベルだなあという印象です。ですが同時に、彼女の指摘する3点を実現すること含め、このレベルがカスタマーサクセスの究極目標のディファクト標準になったなら、それはとても素晴らしい世界だな、と期待してしまいます。
皆さんはどう思われますか?
注:著者Kia Puhm氏の許可を頂き原文の和訳を紹介します
カスタマーサクセス 2.0:業界として目指すべき所
健全な企業であれば、会社が大きくなるほど新規顧客の獲得率を維持するのは難しくなります。ある一定規模に成長したSaaS(Software as a Service)事業にとり、既存カスタマー基盤から得る売上を増やすことは非常に重要です。
それはカスタマーサクセス業界の方々にとり周知の事実であり、カスタマーサクセスの登場初期における強力な浸透原動力でもありました。「既存カスタマー基盤からの売上を増やす(以降、「エクスパンション」という)」は、成長し続けたい継続企業にとり死活問題的に重要です。
にもかかわらず、エクスパンションの実態は未だ幼少期レベル、というのが私の見立てです。
即ち、大抵の企業はカスタマーにプロダクトを活用してらうこと(アダプション)に多大な人を投入し彼らの膨大な時間と労力を割きつつ、契約更新については、良く練られたエクスパンション戦略を検討することもなく、成り行き任せになっています。
こういったアプローチを私は「カスタマーサクセス 1.0」と呼びます。もし最大限のエクスパンションを望むなら、「カスタマーサクセス 1.0」から脱却し次のレベルに進む必要があります。
カスタマーサクセス 2.0
「カスタマーサクセス 2.0」を推進する企業は、自社のプロダクトがカスタマーの事業にもたらす可能性を全体視点で把握し、その見立てに応じてカスタマーサクセスを推進するため、カスタマーの中で自社プロダクトが非常に高い成熟度で活用されるまでシッカリ支援します。
具体的には、カスタマーと戦略的パートナーに相当する緊密な関係を築きプロダクトが継続的に価値を出すのを担保すること、加えて、それを達成できれば更にプロダクトが利用拡大されるという高い事業目標の達成を一緒に目指すこと、に尽力します。
言い換えれば、単に「プロダクトを使ってもらう」に留まらず、「プロダクトを使ってもらうことでカスタマーの事業自体の成長を加速させる」が究極の目的になっています。
カスタマーの事業を加速させる、がブレずに目指すべき真のゴール
では一体、「カスタマーの事業成長を加速させる」とは具体的に何を意味するのでしょう?
シンプルに言えば、次の3つです:
1. アダプション :自動化を徹底する
人によるアシスタントの必要がゼロ、ないしほぼゼロで、ユーザーが眉をしかめることなく直感的に進められる、テックタッチまたは自動化アプローチを採用する
2. リテンション :カスタマーの事業への成果に徹底的に拘る
カスタマーの事情(プロダクトにお金を払った理由、達成したいこと、プロダクトが利用される作業環境など)と、彼らが期待する理想的カスタマージャーニーについて深く理解し、 確実に成果を出す “攻め” のカスタマーサクセスマネジメントを積極的・予測的アプローチで推進する
3. エクスパンション :プロダクトの使われ方の成熟度を上げる
上述の1と2を正しく実行できた暁に、プロダクトの使われ方の成熟度を高次元にひき上げることにカスタマーサクセスチームの時間を集中投下し、究極的にはカスタマーの事業そのものが成長するのを加速させる
以上からお分かりの通り、「カスタマーサクセス 2.0」は、自社プロダクトが究極的にカスタマーの事業そのものの成熟度をどう高められるか、という視点でカスタマーサクセスマネジャーがカスタマーを徹底支援する、結果として、エクスパンションが自然発生する状態です。
言い換えると、「カスタマーサクセス 2.0」 のカスタマーサクセスマネジャーは、カスタマーの事業そのものに価値を付加していく戦略パートナーの役割を担います。
このようにエクスパンションに重点を置く「カスタマーサクセス 2.0」は、もちろんアダプションと契約更新にも漏れなく目配りを続けます。むしろ、アダプション、リテンション、エクスパンションをすべてカバーするカスタマージャーニー全体を見据えるカスタマーサクセスマネジャーが、カスタマーの真の戦略パートナーとなり、カスタマーの事業成長を加速させていくのです。
最大限のエクスパンションを目指しましょう!