
先の投稿「カスタマーサポート体験を根本から変える第3の波:「セルフサービス」」でも書きましたが、私は個人的に、カスタマーサクセスの究極の姿は「セルフサービス? +??コミュニティ? +??アドボカシー? = 最強コンビネーション」を高次元(誰もがマネたくなるレベル)で実践することだと信じています。
この組み合わせは、日本人ユーザーにとっても、最少リソースでスケールを効かせたい企業にとっても、お互いに好ましいものです。
この組み合わせは、オンボーディングはもちろん、アダプション、エクスパンションにも活かせます。そして究極的には、カスタマーがカスタマーを連れて来てくれる「顔の見えるスーパーファン基盤」が手に入ります。それも最少リソースで(←ここ大事)。なぜなら、ストック事業におけるストック型のカスタマーサクセスの形だからです。
問題は、この最強コンビネーションは実行難度が高くかつ時間もかかるため、なかなか本腰で着手に踏み切れない点です。
それでも私は期待しています。というのも最近、カスタマーサクセスの先端リーダーさんから、「カスタマーコミュニティを本腰で立ち上げたい」という相談がチラホラ寄せられるようになったからです。
私の知る限り、この最強な組み合わせで誰もが認める成功事例は米国でもまだありません。ぜひ日本企業に一番乗りしてほしいと願い、関連記事を少しずつ紹介します(なお資料・記事は割と豊富にあります、ご関心ある方は個別に問い合わせください)。
今回は、Sprinklr社でカスタマーサクセスを統括された後、現在プロダクトソリューションを統括されているジョー・チャルニツキ氏による、コミュニティ立ち上げに関する記事です。「コミュニティ」というとフワフワした内容が多い中、ジョーさんの経験に基づく7つのステップは非常に具体的、実践的で説得力があります!
注:著者Joe Charnitski氏の許可を頂き原文の和訳を紹介します
カスタマーコミュニティ立ち上げにおける重要な7つの検討ステップ
ネットに繋がった消費者は、 過去に類のないほど様々な情報を入手し、欲しいもの・したいことを自由に手にいれるようになっています。企業は、カスタマーと末永い関係を築くことで、彼らの声に耳を傾け、率直な意見を正しく理解しなければなりません。
ツールとしてのオンラインコミュニティは、こうしたニーズをもつ企業にとり、その重要性がどんどん高まっています。
強力なカスタマーコミュニティを構築できれば、そのメリットは組織全体に恩恵をもたらします。
・マーケティングチームにとっては、イベントへの出席を促し、ウェブサイトのトラフィックを上げ、誰がブランドのファンなのかを特定できるようになります。
・カスタマーケアチームにとっては、カスタマー自身がコミュニティに参加することで自律的にヒントを学び合ったり質問に答え合い、または自社の専門家から指導を受けるようになります。
・プロダクトチームにとっては、プロダクトやサービスに対するカスタマーの誠実なフィードバックを得ることができるようになります。
カスタマーコミュニティをゼロから構築するのはとても難しいことに思えるかもしれません。しかし、よい技術や実証されたアプローチが手に入るようになった現在、過去に比べるとより容易になりました。
以下に、カスタマーコミュニティ立ち上げに必須な7つの重要要素をご紹介します。あなたのチームに役立ちそうなら、ぜひ参考にしてみてください。
1. 目的
コミュニティの構築・維持には時間と費用がかかるため、着手する前に、カスタマーコミュニティを構築することの事業上の目的を明確に定義することが非常に重要です。
航空会社やモバイルプロバイダーなどの消費者重視型(2C)の企業では、パーソナルな印象を与えることを心掛けつつも膨大な件数のカスタマーとの対話を管理する必要があるため、カスタマー満足度の向上とコールセンターコストの削減が目的の中心になることが多いです。また、カスタマーフィードバックを活用し、新しいプロダクトのアイデアやプロセス改善を進めることに集中するケースもあります。
技術ベンダーのような企業重視型(2B)の企業は概して、カスタマーコミュニティを活用することで販売プロセスを合理化したり、見込み客がニーズに適したソリューションをすばやく見つけられるようにしたりすることに関心を寄せています。自社のプロダクトやサービスを契約してくれたカスタマーのコミュニティは、プロダクトの技術サポート範囲外にある実装上の問題などに対し、実際とても貴重かつ現実的なヒントやコツを披露してくれることがよくあります。
2. 指標
目的を定義したら、それを関連する指標にリンクさせることが非常に重要です。つまり、コミュニティがもたらす成果をどう測定するのか?、定義した目的が達成されているかどう評価するのか?ということです。
月次のページビュー数やユニークビジター数などは重要な測定基準の1つです。他にも、質問した人の数、質問に回答した人の数、作成されたブログ投稿数、ユーザーが作成したコンテンツ(User Generated Content)数などの「ユーザー関与度」をトラッキングすることも必要不可欠です。また、取引完了時のサーベイやネットプロモータスコア(NPS)などより広範な指標で満足度を測定することもできます。
経験豊富なコミュニティマネージャーは、複数ソースのデータを組み合わせることで、カスタマーコミュニティサイト全体がどれだけ健全に活用されているかを観察します。例えば、コミュニティプラットフォーム自体がもつ分析機能の他、Googleアナリティクスのようなサードパーティのツール、企業ウェッブサイトのような重要なリンク先サイトのデータなども活用します。
効果的なコミュニティを構築できれば、メインのウェブサイトへ相当数のトラフィックを誘導できることに多くの企業が気づいています。同時に、自分で検索してメインウェッブサイトへたどり着いたカスタマーに対しては、コミュニティが優れた仲介役の役割も果たしてくれます。
3. アーキテクチャ
コミュニティのアーキテクチャ(構造)を考えるのは、想像よりずっと難しいです。
コミュニティは一般的に、関連するコンテンツを見つけやすくしたり、コメントを付けたり、自分のテキストやビジュアルを投稿したりするため「フォーラム」や「カテゴリー」が定義され、それに基づいて構造化されています。
ある人があるフォーラムに参加するには、そのフォーラムが既にアクティブかつ新鮮な関連資料が存在していなければなりません。従って、コミュニティ構築の初期段階では、誰もが関心を寄せる分野に絞ってコンテンツアーキテクチャを設計し、コンテンツの量が十分増えたら構造を拡大することが重要です。
コンテンツのバスケットは、プロダクト別、市場別、活用事例別などの他、コミュニティ参加者の関心事に基いて設定します。
以下はベストプラクティス例です:
・タグを活用し、関連コンテンツを集約する
・メイントピックごとにカスタマイズしたランディングページを作る
・ウィジェットを使い、ホットトピックとプロモーションされた記事を強調表示する
・コミュニティの進化に合わせてコンテンツ構造も進化させる(変える)
4. デザイン
デザインに対する消費者の期待値は上がっています。結果、企業がカスタマーとやり取りする接点のデザインの標準レベルも格段に上がっています。即ち、あなたのコミュニティは視覚的に魅力的で、コンテンツを容易に発見でき、操作性も格段によいものでなければなりません。
コミュニティのビジュアルデザインを最適化するため、あなたの会社のブランディングチームを早々に巻き込んでください。公共のコミュニティと自社のウェブサイトとを区別しながら、ブランドアイデンティティ全体の一貫性を保つ必要があります。
ウェブデザインのツールとプロトコルは常に流動的ですが、使用するデバイスの表示特性に基づき、流体グリッド、フレキシブルイメージ、多様なスタイルルールを活用し、レスポンシブなウェブサイトをデザインすることが何よりも必要不可欠です。
優れたデザイン案をお探しの場合、「カスタマーコミュニティ」というキーワードに、あなたの会社の業界に関連する主要ブランド名、及び他業界の特に優れた主要ブランド(例:Apple、Nike 、インテル)名をプラスして、ウェブ検索してみてください。
デザインテーマのスナップショットを製作するには、ホームページのスライドデックと、コミュニティの20〜30件のトピックページをまず作成し、チームメンバーでブレインストーミングしてから、ベストアイデアを選定し、カスタマーやチャンネルへ適用しましょう。
5. コンテンツ
コミュニティをゼロから構築することは素晴らしい機会ですが、同時に相当量の作業が必要です。まずは代表的なコンテンツをつくって種をまき、最初のユーザーを誘致してコミュニティの一員になってもらう必要があります。
そのために、まずはカスタマーケア担当者、テクニカルサポートリーダー、プロダクトマネージャー、ディベロッパー、エンジニアらと話をし、彼らが既にもっている&つくることが計画済みのコンテンツ(アセット)として何があるのか教えてもらいましょう。彼らは大抵、一般向け公式サイトで自分たちのコンテンツが共有されることを喜び、気持ちよく協力してくれます。
その後、彼らと再度ブレインストーミング会議を設定し、将来のコンテンツについて計画し始めましょう。たとえば、営業担当者とカスタマーケアチームとが、年1度のカスタマー向けカンファレンスでの全コンテンツを掲載するフォーラムの新設にむけて協業することを決定する、などです。
重要なポイントは、「コミュニティは小さく生んで大きく育てる」ことです。
成功するコミュニティマネージャーはみな素晴らしいコラボレーターでもあります。あらゆるテーマの専門家を見つけ出し、執筆プロセスを通じて彼らをコーチングし、彼らがもつ深い知識をコミュニティに共有できるように仕向けます。
賢明で優秀な技術者は、彼らの知識や洞察(インサイト)を周囲に共有することなら熱心に取り組んでくれます。一方で、賢い彼らの思考を誰もが理解できるよう効果的に構造化し分かりやすく伝えることに関しては周囲が手助けする必要があります。
コンテンツに関するその他の重要な検討事項:
・可能な限りタイトルと冒頭の段落に関連するキーワードを使用しましょう。特にサポート案件、ブログ投稿、社内の人による寄稿では必須です。
・見込み客と既存カスタマーがあなたのプロダクトやサービスを検索する時に使う可能性のある用語を吟味しましょう。そしてその用語をサイト上の文章で自然な感じかつ効果的に使用しましょう。
・カスタマーがネットに繋がるあらゆるタッチポイントに入った際に、あなたの会社のコミュニティサイトおよびウェブサイトが最も効果的に機能するようにしましょう。
企業ブログは、会社のソートリーダーシップ(訳者注:Thought Leadership。特定分野において将来をリードする先端かつ革新的な意見や思考を提示し周囲の議論や合意を創造する能力)を発揮するのに最適な場です。
逆に、カスタマーや競合各社とプロダクトの詳細を議論をするのに適した場ではありません。可能であれば、カスタマーコミュニティと企業ウェブサイトとの間に双方向リンクを設定し、カスタマーによるランダムな会話が、確立されたウェブフローに入り込まないようにしましょう。
・常に品位を保ちましょう。カスタマーコミュニティは、競合他社を誹謗する場ではなく、御社の強みを明示する場です。競合ベンダーや競合プロダクトを攻撃するような投稿は明示的に禁止するルールを確立し、誰かが違反した時はコミュニティマネージャーに違反が通知されるよう警告を設定します。
・個人やボットによるスパム攻撃やその他の悪用を防ぐため、送信設定を主導で調整する必要があります。メジャー系のコミュニティプラットフォームは、スパムのようなゴミを自動的に削除する優れたコントロール機能を備えていますが、それでも、コミュニティマネージャの時間をこのタスクに割り当てる必要もあります。
6. マーケティング/ 持続性
「フィールドを用意できたら、彼らはきっと来る(”If you build it, they will come”)」というセリフは、フィクション映画(訳者注:フィールド・オブ・ドリームス)らしい詩的で美しい文章です。
現実の世界では、新たにコミュニティを用意し合理的な規模のカスタマーに来てもらうには、それなりの予算が必要です。
あなたの発信するメッセージを広めてくれるコンテンツを無料で作成・提供してくれるような、ブランド代弁者たるファンの基盤を構築できたとしましょう。それでもなお、彼らのようなスーパーユーザーを探し出し、育成し、報酬を与えるためには予算が必要です。
まずは既存カスタマーをよく知る必要があります。 特にコミュニティに登録してくれたメンバーについては、コミュニティ指標を観察し、彼らがどういう人なのか、彼らの懸念・関心事項は何なのか、をより良く理解してください。
そして、あなたの会社のプロダクトをインストールしてくれたカスタマー基盤全体を無視しないでください。営業チームと協力し、新規カスタマーへコミュニティへの参加招待状を送付した後も、彼らに対し継続的に参加を報奨しましょう。
何よりも重要なのは、コミュニティの参加者1人ひとりのことを大切に想い、常に気を配ることです。
活気がある上手く運営されたコミュニティを手に入れる最良の方法は、コミュニティを心から愛す人がそれを管理・運営することです。たとえば、カスタマーコミュニティ参加者がハードコアのゲーマーだった場合、コミュニティマネジャーはハードコアのゲーマーでなければなりません。同じ言語を話せることは必要不可欠です。
7. プラットフォーム
冒頭、カスタマーコミュニティの展開を始める前に事業上の目的を明確にすることが重要だと言いました。目的に応じたコミュニティを実装していく段階で非常に重要なのが、プラットフォームに何を選択するかという点です。
プラットフォームの選択は、単にアプリを選択するという次元の話ではなく、カスタマーをデータではなく人として深く理解するのに役立つ戦略的プラットフォームを選ぶというレベルのことを意味します。
以下は、様々なコミュニティプラットフォームの中から自社に最適なものを評価する際の重要な視点です:
スムーズなコラボレーションを促進する
コミュニティ投稿の中に、標準的な問題・問い合わせ管理&解決を担当するチームへエスカレート(報告連携)すべき内容があれば、漏れなくそうできるようなワークフローが設定可能である
カスタマーが探し物を簡単に発見できる
Googleや他の検索エンジンと高度に最適化され、カスタマーにとって検索が非常に容易である
コミュニティーから得た有用な情報・データを社内の他組織とやり取りできる
会社が情報公開、モニタリング、リスニング、分析などのために元から使っているテクノロジーと統合できる
以上、7つの重要な検討ステップを紹介しました。あなたの会社でも、これら7要素に細心の注意を払えば、きっと効果的なカスタマーコミュニティを計画、構築、維持できることでしょう。